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婆娑羅絵巻
序章
婆娑羅絵巻より女義経の噺

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昔、或る娘が居た


その娘の実父は陰陽道に通じる名家の生まれであったが巫女の女との駆け落ちの末できた子が娘だった為、娘は存在を隠され常陸国の古びた社にて育った


娘には人ならざる力があり、山や社の鎮守の杜、社の周りで物の怪や獣と遊んでいた


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後に娘は父方の家に引き取られたが齢七つになると巫女として尾張国の五穀豊穣の祭にて御神楽舞を舞って居たところをその地を治めていた領主が気に召し、養子として娘を引き取り実の子同然にそれはそれは可愛がった

どれほど可愛がったかと言うと新しい名を与えては自らの名前の一字をその名につけ、様々な教養を施した程である
もとからこの娘、賢かったが武に通じ、より知恵を深め文武両道に成長していった
娘は戦でもかなりの戦功を挙げ、「女義経」と呼ばれ領主の配下である「鬼武蔵」らと共に行動していたとされる



娘には引き取った領主の実子である三人の義兄と一人の義妹が居た
義兄妹仲は良かったが、なかでも長兄は父以上に娘を愛していた
だが娘はあまり長兄のことを良く思ってはいなかった


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やがて娘はより美しく成長し『菫の君』と呼ばれその美しさは
髪は夜の帷を紡ぐ糸の様
肌は白磁の人形のように滑らかにして清らか
唇は露に濡れた桃の花の様に艶やか
眼は瑠璃のように輝き、菫の様に愛らしい
と多くの人々に讃えられた

だが美しく成長した娘を愛するあまり長兄は娘を人の前に出さぬよう、戦に出ることを禁じ京の屋敷に隠してしまった



屋敷に隠されるようになってからその顔を見た者は親族以外当然ながらいなかった
だが娘に少しでも気に入られたい、自らの伴侶に迎えたいという殿方は多く人伝に噂を聞き娘に文や贈り物、縁談を持ち込むものも数しれず居た


当然長兄はそれを許すはずもなく、送られた文は全て兄より処分され、縁談も断り贈り物も相手に返し兄は誰一人娘に近づけさせようとはしなかった

以前より長兄を好いては居なかった娘は封じられて以来部屋に塞ぎ込み、長兄との間の溝も深まっていったそうな





【婆娑羅御伽草子絵巻より菫の君・序章
※一部損傷アリ】

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