黒と繋ぎし想い華
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自分の限界が訪れた時に相手が僅かに衰えていれば、最後の力を振り絞って勝利を治めさえすればいい。
百回の試行を繰り返しても九十九回の敗北が決定している一騎打ちであるならば、一番最初に勝利の一回をもぎ取ろう。
一度でも勝つ事が出来れば自分達の方が上だ。本来は有り得ない下剋上なのだから。
使い捨ての駒である自分達のような兵士が、世界に愛されている武人を脅かす……そんな証明を渇望する。
避けながらぎらぎらと獲物を狙う肉食獣のような瞳で観察し続ける部隊長は、精神力だけで戦っているに等しい。
心の燃料が切れない限り戦い続けられる……などとは言うまい。彼は所詮凡人の域を出られず、疲労が己の肉の限界に達すれば脳内麻薬の効果さえ失い地に伏すだろう。
――大丈夫だ……まだ、まだ戦える。だから確り見とけよお前ら。
不屈の精神を支えているのは己の渇望と、愛しき主への想いと、バカ共から向けられる信頼のみ。
もう幾重の脅威を避けただろうか。長い長い時間にも感じるし、一重の瞬刻にも感じられる。
「っ……く……」
ようやっと僅かに、部隊長の肉に鈍砕骨が掠った。掠ってしまった。
こめかみに掠ったトゲの一つが部隊長の頬に赤を滴らせる。
にやり、と凶悪な笑みを浮かべた焔耶は、小さな傷を付けられたことで部隊長の状態を理解した。
「ふん、そろそろ疲れてきたようだな。私は……まだまだいけるぞっ」
言うや横なぎ一閃。
身を深く沈めて躱した部隊長の身体がギシリと軋む。転がることでどうにか射程圏内から離れたはいいが、荒い息が彼の限界が間近だと知らせている。
しかしやはり、彼は不敵に笑った。
「……へっ」
「何故笑う?」
「いんや……? まだ、まだ俺は足りて無かったって思ってさ」
「わけの分からんことを……」
「お前にゃ分かんなくていい。やっと、分かり掛けてきたんだ……“あいつ”のキモチが」
深く腰を落とした。再びとった構えは黒のモノ。俊足は行えない、出来るのはいつでも積み上げてきた連撃の太刀のみ。
まだ防御主体でいい、と部隊長は断じた。
まだ耐えられる。これくらいで音を上げていたら……“あいつ”に笑われる、と。
――なぁ……お前はこんな気持ちで、血みどろになりながら毎日御大将に挑んでたのかよ?
一つだけの問いかけを行うと、彼の心の内に生きている“あいつ”が、男くさい豪快な笑い声を上げて応えた気がした。
†
「お願いだっ! 曹操様と話をさせてくれ!」
徐晃隊最精鋭の全滅報告を聞き、曹操軍の元に集った後のこと。
捨て奸の跡、俺達の最終手段の行く末を見定めてから、天幕の一つに集まったバカ共は残存する徐晃隊の部隊長全てだっ
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