黒と繋ぎし想い華
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――。――も死んだ。あとは一番新しく入った――もな。
なんで此処に居るかって? そりゃ……死んだ奴等の弔い酒をお前ら小隊だけになんざやらせてやるかっての」
そう言った後、トクトクと酒を杯に注いで、あの人は一つを焚き火の側に置く。自分達の分も注いでいる時に、後ろの小隊長達は死人が出た部隊の奴だと気付く。
それよりも、皆の驚愕はそんな所ではない。
彼は寸分違えずに、死んだ奴等の名前を呼んだのだ。新しく入った関わりの少ない男でさえも。
曹操軍の兵士と話した時に言われた。
ふざけあったり茶化し合ったりと仲良くしてる俺らを見て、兵士同士で名前なんか覚えるなよ、と。
なんでだ、と聞くと……いつ死ぬか分からないから覚えるべきじゃない……なんて答えが返ってきた。
理由は分かる。
人が死んだ時、悲しむ時間と心に掛かる痛みを少なくするには……“忘れること”が一番だから。
兵士達は当たり前のようにそうしてた。
長く戦う内に、その痛みに耐えられないと知ったのだろう。
俺らだって、今回だけで此れなのだ。この先もずっとこんな痛みが続くなら……兵士なんざ続けていられない。そう思った。
だったらなんで、安易に辞められる兵士とは違って、才持つが故に主が望むなら戦い続けなければならない彼は、末端の兵士如きの名前を憶えているのか……皆の驚愕は其処にあった。
「徐晃様……あんた、――を覚えてる、のか?」
「ああ、ちょっと背が低くてさ、人懐っこい笑い方する奴だった。立ち寄った村の娘に惚れて滞在中にしっかりと落としやがって、黄巾が終わったら迎えに行くって言ってたなぁ」
小さく喉を鳴らす彼は楽しそうでありながら寂しそうに。いいようのない不安と、何処か広がる安心感を俺は覚えた。
たった一人の兵士のことを、なんで其処まで覚えてやがる……言葉で表すならそんな感じ。
グビリと喉を鳴らして杯を空けた彼は、皆を少しずつ視線を合わせて穏やかに微笑んだ。
「忘れるわけねぇだろ。お前らのことだってな。俺はちゃんと覚えてる。――は前の戦いの後で俺に突っかかってきたよな? ――、お前はもうちょっといびきを小さくしろ、うるさいって苦情が出てるぞ。――は曹操軍とのいざこざですまんことしたな。――は……」
一人ずつ名前を呼んで、ナニカを語って行く。最後に俺と視線を合わせて、呆れたように微笑んだ。
「――。意地張っちまうお前は結構無茶するけど、そんなお前だから小隊長を任せてる。俺の手は隅々までは届かない。だから、此れからもよろしく頼む」
はらり、と頬を涙が零れた。見ればバカ共も泣いていた。
俺らみたいな兵士を、この人はちゃんと覚えてくれている。死んじまったバカ共のことも、この人は忘れることなんてない。
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