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乱世の確率事象改変
黒と繋ぎし想い華
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「あいつ、黄巾が終わったら結婚するって言ってたのに」
「御大将が企画してる警備隊、だっけか? 劉備様が領主になれたらそれになるって言ってたな」
「そうさ、守りたいもん出来たならそれがいい」
「兵士なんざ辞めて街を守ってる方が安全だし、恋人も安心させられるわな」

 その時、一人の男が声を荒げた。

「一人身の俺らよりも、あいつが生き残るべきだったんだっ!」
「おい、やめろ」
「だってっ……だってよぉ……」

 感極まって涙を零す一人が、大地に拳を打ちつける。

「せっかく、幸せになれるってのに……哀しい、じゃねぇかよぉ」
「……」

 答えを返せるモノは居なかった。其処に居た皆、同じ気持ちだったから。

「俺が守れたはずなのに……小隊で肩を並べてた俺が、守ってやらなきゃなんなかったのにっ」

 それなら責は什長の俺にある、とは言えなかった。死んだ奴と一番仲が良くて、隣で戦っていたのはそいつだった。
 庇っても何も満たされない。失った事実は変わらない。自分達の力不足で届かなかった幸せは……戻らない。

「あいつは……――は、貧乏な村に生まれて、こっから頑張れるって時だったんだぜぇ?」

 呼ばれた名前。はっきりと覚えてる。そいつがどんな生き方をしてきて、どんな想いを持っていたかも。
 いつだってバカな事を繰り返して来た俺達は、家族だと言っても過言では無いほどの信頼に結ばれていて。
 隣の誰かが呆気なく死ぬことが当たり前の戦場で……俺達は隣の誰かではなく“あいつら”を確りと認識したまま、次は“あいつ”が死ぬんだと理解を置く。
 別の小隊であっても、名前も知らない奴等が死ぬのとは違った痛みが、いつだって俺達を襲いやがる。
 真っ二つに切り裂かれたような、ぽっかりと穴を空けられたかのような……そんな痛み。

 同じ釜の飯を食って笑い合ってた“あいつ”が今日は居ない。
 明日の最前列は“こいつら”だから、今夜が笑い合える最後かもしれねぇ。

 戦の度にそれを繰り返して、俺達は誰かを失ってばっかりだった。
 初めから仲良くならなけりゃこんな想いを感じずに済んだのかもしれない。

「……そうさな、――は力があんまり強くないくせに必死で強くなろうとしてたっけ」

 背後からの声に全員が振り返った。
 ゆったりと歩いてくるその人は、後ろに小隊長達と大きな瓶を担いだ周倉を引き連れて……感情の読み取りにくい顔で緩く語った。

「徐晃様……」
「な、なんで此処に?」

 当然の疑問。部隊を預かる将が俺達兵士の所にまで来るとは思えなかったから。今頃は軍師様方は曹操軍の将達と難しい話をしてると思ってた。
 苦笑を一つ、その人は寂しい顔で笑った。

「今回の戦いで――と――と――、それに
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