暁 〜小説投稿サイト〜
乱世の確率事象改変
黒と繋ぎし想い華
[18/19]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
も、肉片がはじけ飛ぶことは無かった。
 あらぬ方向に折れ曲がった腕、剣の腹を頭に当てて、部隊長は鈍砕骨を無理やり受け止めた。僅かに逸らせた軌道によって、右肩の肉に鈍砕骨の棘が刺さり血が流れていた。

「クク……軽いなぁ」

 苦笑が黒と似ているなと場違いな事を考えながらも、視線を合わせた魏延の瞳を覗きこむ。
 驚愕、焦燥、狼狽……戦場で行ってはならない感情変化を浮かべて、彼女は部隊長を見ているようで見ていない。

「な、何故だ……」

 必殺の一撃を防がれるとは思っていなかった。
 確実に叩き潰したと思っていた……普通であれば叩き潰せていたはずなのだ。
 自分の一撃を受けたのがたかだか部隊長。認めたくない現実、認められない事実に狼狽える。
 否……彼女の驚愕はそこでは無い。

『軽いな』

 耳に反芻される声。自分の一撃が軽いと、この男は言った。他の誰に聞いても重いと言うであろう一撃が軽い、と。

「……意思が足りねぇ、意地が足りねぇっ、想いが足りねぇっ!」

 叫ぶ。覗き込んだ瞳の奥底で、轟々と激情が燃えていた。

「俺は黒麒麟が身体、第四部隊の隊長だっ! 舐めんな魏延! 御大将の剣はもっと重かったぁ!」

 膂力は間違いなく焔耶の方が上であろう。しかしいつも受けてきた剣の“重さ”は……世界を乗せる剣だった。
 比べれば受けられないはずはなく、己の身を無視したならば……こうして受け止めることすら出来た。

「負けるかよぉ! 俺らの大好きな御大将を壊した劉備軍の下っ端なんざに!」

 憎しみと怨嗟、渇望と意地。数多の感情を綯い交ぜにした心は人間としてのリミッターを外し切っていた。

 この時点で徐晃隊としては勝ちだ。焔耶の武器の動きを封じた時点で、彼女は連携連撃の餌食となるのは相違ない。
 しかし部隊長は証明したい。己一人でもこの女に勝てることを。
 故に、彼は尚も言葉を続けた。

「軽いっ! 軽い軽い軽い軽い軽い軽いぜぇ! てめぇの剣には想いが足りねぇ! 可愛いなぁ魏延ちゃんよぉ! 人っ子一人、兵士一人潰せねぇなんて!」

 驚愕と焦燥に支配されていた焔耶を焚き付ける。狼狽から立ち直った彼女は、ギシリと歯を噛みしめた。

「黙れぇっ! 私が潰せない!? 私の剣が軽い!? 冗談じゃないっ! 肉を抉られているモノが強がりを! そんなに叩き潰されたいのならっ……」

 当然、激情の渦は伝播する。この陣に来た時からずっと積み上げられてきた幾重もの挑発が、彼女を激情の渦に呑み込んで離さない。
 この状況こそが、誰かの計算式の一つであるともしらずに。

 挑発は徐晃隊にとっては見慣れた光景。誰有ろう黒麒麟は人の心を操るに長けていたのだ。陣に入ってからの状況や彼の言動を鑑みれば、一
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ