黒と繋ぎし想い華
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も、肉片がはじけ飛ぶことは無かった。
あらぬ方向に折れ曲がった腕、剣の腹を頭に当てて、部隊長は鈍砕骨を無理やり受け止めた。僅かに逸らせた軌道によって、右肩の肉に鈍砕骨の棘が刺さり血が流れていた。
「クク……軽いなぁ」
苦笑が黒と似ているなと場違いな事を考えながらも、視線を合わせた魏延の瞳を覗きこむ。
驚愕、焦燥、狼狽……戦場で行ってはならない感情変化を浮かべて、彼女は部隊長を見ているようで見ていない。
「な、何故だ……」
必殺の一撃を防がれるとは思っていなかった。
確実に叩き潰したと思っていた……普通であれば叩き潰せていたはずなのだ。
自分の一撃を受けたのがたかだか部隊長。認めたくない現実、認められない事実に狼狽える。
否……彼女の驚愕はそこでは無い。
『軽いな』
耳に反芻される声。自分の一撃が軽いと、この男は言った。他の誰に聞いても重いと言うであろう一撃が軽い、と。
「……意思が足りねぇ、意地が足りねぇっ、想いが足りねぇっ!」
叫ぶ。覗き込んだ瞳の奥底で、轟々と激情が燃えていた。
「俺は黒麒麟が身体、第四部隊の隊長だっ! 舐めんな魏延! 御大将の剣はもっと重かったぁ!」
膂力は間違いなく焔耶の方が上であろう。しかしいつも受けてきた剣の“重さ”は……世界を乗せる剣だった。
比べれば受けられないはずはなく、己の身を無視したならば……こうして受け止めることすら出来た。
「負けるかよぉ! 俺らの大好きな御大将を壊した劉備軍の下っ端なんざに!」
憎しみと怨嗟、渇望と意地。数多の感情を綯い交ぜにした心は人間としてのリミッターを外し切っていた。
この時点で徐晃隊としては勝ちだ。焔耶の武器の動きを封じた時点で、彼女は連携連撃の餌食となるのは相違ない。
しかし部隊長は証明したい。己一人でもこの女に勝てることを。
故に、彼は尚も言葉を続けた。
「軽いっ! 軽い軽い軽い軽い軽い軽いぜぇ! てめぇの剣には想いが足りねぇ! 可愛いなぁ魏延ちゃんよぉ! 人っ子一人、兵士一人潰せねぇなんて!」
驚愕と焦燥に支配されていた焔耶を焚き付ける。狼狽から立ち直った彼女は、ギシリと歯を噛みしめた。
「黙れぇっ! 私が潰せない!? 私の剣が軽い!? 冗談じゃないっ! 肉を抉られているモノが強がりを! そんなに叩き潰されたいのならっ……」
当然、激情の渦は伝播する。この陣に来た時からずっと積み上げられてきた幾重もの挑発が、彼女を激情の渦に呑み込んで離さない。
この状況こそが、誰かの計算式の一つであるともしらずに。
挑発は徐晃隊にとっては見慣れた光景。誰有ろう黒麒麟は人の心を操るに長けていたのだ。陣に入ってからの状況や彼の言動を鑑みれば、一
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