黒と繋ぎし想い華
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確信とそう言いたいのに、彼女には言えなかった。
――否……これは“望み”か。時として、紡がれた“望み”は結果を手繰り寄せるものじゃ。
都合のいい出来事とも呼べるし、積み上げられたナニカの結果と称賛すべきモノでもある……奇跡とは得てしてそういうモノ。
焔耶と桔梗を除き、此処に居る全ての者が期待し信頼しているから、未来の確率が望みとして収束される。
面白いモノよ、と彼女は笑った。
自分でさえ、兵士が将に勝つという確率を見てみたいと僅かに思ってしまっているのだから。
肩に背負った鈍砕骨が鈍く輝く。黒に所々ついた血の紅が篝火に照らされて色めく。
一歩一歩と歩み寄った焔耶は、終わらせようと頭を冷まして行った。
「……何か言い残すことはあるか?」
一応、一応だ。聞いてみるのも一興。
出来れば殺したくないと思う。戦場で殺すのなら分かるが、こんな仕立て上げられたような場で殺すのは何処か違う気がした。
だが、殺さなければ諦めないであろうことも事実。こういう敵は命を叩き潰さなければ終わらない。
秋斗が止めれば殺さないで済んだはず。将の命令を聞くのが兵士の役目であり、絶対の理。いくら自分達から望もうと、である。
自分が矛盾していることに彼女は気付かない。
そして……彼の思考誘導で矛盾させられた事にも、彼女は気付かない。
桔梗さえも気づかない。誰も彼もが気付かない。
殺さなければ終わらないから殺す、では桃香の理想が叶えられないということに。
折れない相手を前にして、彼女達の言う救いは何ら機能しない。
意地だらけのバカ共を前にして、彼女達の語る理想は押し付けにしかならなかった。
曲がらない想いを持つモノは、理想を語るモノに抗える。抗うからこそ世界は変わる。
死んでも通したいモノがある……そういった意地っ張りの意思こそがいつだって世界を変えるのだと……彼だけは気付いている。
そしてそれに気付かずとも……自分達の想いが世界を変えるのだと、徐晃隊の者達は信じて疑わない。
武での勝敗はまだ出ずとも、矛盾を与えた時点で、そして想いを貫いた時点で……秋斗と焔耶の問答は彼以外気付くことなく勝敗が決した。
部隊長の生き様が、桃香の理想を打ち砕く証明に足り得た。
「お前は俺達に勝てねぇよ……魏延」
目を開いた部隊長の瞳には、想いの華を咲かせるバカ共に相応しい光が輝いていた。
優しい笑みは、憧れた片腕の死に顔と同じような穏やかさ。
夜風が寂しく吹き抜ける。
振り上げられた凶器がぎらりと輝いた。
両の手に持った剣と槍を、部隊長はギシリと握りしめた。正真正銘最後の力で、男の意地を示そうと。
必殺の距離で振り上げられた武器
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