第二十一話:夕飯前の出来事
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れを喰えない俺は、冷蔵庫から豚肉を取り出して生のまま齧り付く。
グニュリと形を崩す大振りな肉の塊と、そこから染み出す何処か芳しい油が、俺の食欲を刺激し噛む速度を緩ませる。
そうして咀嚼しながら鍋の中に水を並々と注ぎ……風呂の中で大きく響く水音が、鍋を置く音と同時に聞こえた。
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ぐつぐつと煮える湯の中で、カレーを梱包した袋が軽く踊る様を、オレは黙って見つめている。
……自慢じゃあないが、我が家のクッキングヒーターは何処かおかしい。
最近までコンロ式だったのを、壊れたのを機にと取り換えたばかりなのだから、新品同様と言っても過言じゃあない。
なのに……
「……火ぃ着くまで何分かかってんだ……?」
まるで中途半端に故障しているみたいに、スイッチONから発熱までが異様に遅い。
御蔭で水が湯になるまで、たっぷり十分以上も要したぞ……この野郎。
夕方時の出来事もあり、若干イラつきとネガティブな気持ちを抱えながら、膝へ頬杖をつきやる事もないのでずっとレトルトパウチの空き箱を見つめる。
だが、ただ見つめている訳じゃあない。
この飯時にもマリスへ聞きたい事、此処でも試したい事、それは山ほどある。
忘れないように頭の中に思い浮かべ、固定して置く為だ。
……何時あのバカに話を脱線させられるか、分かったもんじゃないからな。
と―――――ふいに寒気を感じて、後方へ拳を叩きつける。
「たっだいまグホバゴヘッ!」
グニャリ、柔らかい感触が俺の手の甲を不快に刺激し、次いで転がる様な音が聞こえた。
目線だけ後方へ向けてみれば……其処に居たのは上がったばかりで、まだ湯気の出ている楓子だった。
もしかしなくても、また抱きつこうとしやがったんだろう。
いい加減懲りろ。
「ひ、ひがいっ……別にいいじゃんか抱きつくぐらい!」
「抱きつかれてウザい事この上ないってのに、その上でクソ熱い体を押し付けられてたまるか」
「何よ! 兄ちゃんのツンデレ白髪!!」
再び突進してきたバカを平手で叩き落とし、台所から離れるよう彼方へ転がしてやる。
「大体今は料理中だ、邪魔するな」
「え、兄ちゃんが作ってくれるの! なになに!?」
「レトルトパウチの丼とカレー」
「……なーんだ」
「ならお前が作るか?」
「お兄様! 温かなご飯をお待ちしておりますっ」
聞くなり楓子は手の平を返した。
水を沸かしてレトルトを放り込み、時間が経ったら取り出す……この程度も出来ないのに文句を言うとは良いご身分な事だ。
それともやるのが心底面倒くさいだけか。
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