第二十一話:夕飯前の出来事
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帰路に就く俺の足取りは、鉛の鎧を付けたが如く重かった。
向かう際には余計なお喋りもあって短く感じた時間も、帰りはそれなりの長さに感じられた。
マリスの体力が途中で回復し、抱えなくても良くなったのは幸運だな……。
尤もそんな気持ちでいるのは俺だけらしく、後ろでは女子二人が―――正確には一人がピーチクパーチク、マシンガントークを繰り広げている。
話すべきでもなく、耳に入れる必要もない楓子とマリスの会話を耳から追い出し、その道すがらで怒りに似た感情をどうにか押し込め、家に帰ると戸に手を掛ける。
されども……ガチャン、と音がし開く気配がない。
鍵が締められていた。
だが、理由など考えるまでもなく―――両親が出かけている為、案の定鍵が掛けられているのだろう。
合い鍵を使って開くと、物草の如く強引に靴を脱いで上がり居間へと向かった。
「あ、メモがある」
「……だな」
座卓の上に書置きは残してあり、
『お父さんの腰痛みがあまりに酷いので医院へと出かけましたが、何時もの整体外科が都合により長期お休みなので、知り合いの伝手で少し遠くまで出かけてきます。
なので明後日の朝までは戻りません。戸締りはしっかりとね?』
と、そう書き記されていた。
これは堯功というべきか、それとも大して変わらないと言うべきか……要するに、これで丸一日俺らだけの時間となる訳だ。
一々神経を逆なでする言葉や、真剣な空気を読まずに崩してくる理不尽さがなければ、特訓でも作戦考案でも順調に進むだろう。
けど、今日はもう遅過ぎる。
外に出て体を動かす時間は無いし、思った以上に酷使していたか体もダルい。
腹も減っているし、自分で言って置いてなんだが、要因が重なり過ぎだ。
……正直、動く気にもなれねぇ。
「……麟斗。お腹、空いた」
「兄ちゃんあたしもー!」
「……分かってんだよ」
そんな中で口に出されたマリスとバカのお気楽な発言は、実際の所かなり有りがたかった。
何せ考え過ぎて固まりかけていた俺を、スルスルと動かしてくれたからな……。
だから、落ち込んでたんじゃあねぇのかよ楓子、などと突っ込みも入れない。
……本当、アイツは切り替えの早い奴だ。
「楓子……携帯出して、飯前に親父達へ一報入れとけ。今帰りました、ってな」
「え? あたし今携帯持ってないけど?」
「何故にだ」
「だってさ? 夏休み中引っ切り無しに、デートのお誘いが電話でもメールでも超来るんだもん。 ウザいから普段は机の引出しにしまってあるの」
……あぁ……そうだった、忘れていた。
コイツ半端無くモテるんだったな。
世界三大奇虫(楓子が話していた)
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