巻ノ二十二 徳川家康という男その九
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「三河武士の質実剛健な、な」
「それがよく出ているですな」
「そうした家ですな」
「しかしその政、徳川殿の器は」
「天下のものですか」
「そう思う、武だけでなく政もよい」
それが徳川家だというのだ。
「それがわかった、やはり駿府まで来てよかったな」
「ですか、やはり」
「あえてここまで来てですか」
「徳川殿のご領地を細かいところまで見て」
「よかったですか」
「そう思う」
濁った酒を飲みつつだ、幸村は答えた。駿河は酒も美味く幸村はこのことについても満足している。
「そしてじゃ」
「はい、さらに東に向かい」
「そしてですな」
「箱根を越えて北条殿のご領地にも入り」
「そしてあちらも見ますな」
「相模から武蔵まで見てそれから伊賀に入るか」
若しくは、というのだ。
「上野から上田に戻るか」
「いずれにしてもですな」
「東国も見ますか」
「北条殿も」
「そうする、浜松で浪人の方に勧められたが」
このこともだ、幸村は話した。
「実によく出来た浪人の方じゃった」
「と、いうよりかはです」
「その浪人殿は一体何者か」
「ただ出来ただけの方ではなく」
「尋常ではないものを感じますな」
「拙者もそう思う」
実際にとだ、幸村は家臣達に答えた。
「何処の誰かは知らぬが」
「それでもですな」
「只者ではない」
「左様ですな」
「そう思う、拙者のこの旅は御主達だけでなく実に多くの者と会っている」
このこともだ、幸村は話した。
「その中にはそうした浪人や旅の方も多いが」
「何故か、ですな」
「その旅の者等の多くが尋常な気配ではない」
「不思議と」
「妙なことに」
「うむ、そしてどの方も思えば」
十人の家臣達を見ての言葉だった。
「御主達と同じ気配がする」
「我等とですか」
「同じ気配がしますか」
「そういえば確かに」
「そうした方ばかりでしたな」
「老若男女全てが」
「ここまで長い旅に出たのははじめてじゃが」
それでもというのだ。
「これだけ多くの出会いがあり多くのものを見た旅はないであろうな」
「ですな、殿のこの度の旅は」
「実にです」
「多くのことがありますな」
「何かと」
「御主達にも出会えた」
このことはだ、微笑んで言った幸村だった。
「それだけでも大きいわ」
「ですな、我等もです」
「まさか殿にお会い出来るとは」
「いや、思いも寄らぬことでした」
「全く以て」
「運命であろうか」
幸村は飲みつつ考える顔で述べた。
「この旅はな」
「殿が多くのものを見聞きしたことは」
「そのことはですか」
「殿にとって運命」
「そうなりますか」
「そうやも知れぬな」
こう言うのだった。
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