第一部
第二章 〜幽州戦記〜
五 〜極限の戦い〜
[3/7]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
だが、あの男は間違いない。
彼が廖化だから、という理由だけではない。
戸惑いながらも、真っ直ぐに私を見返してきたあの眼。
心に疚しいものを持つ者は、その奥を見透かされる。
思えば、楠や荒木田らもそうであった。
これでもし、廖化が裏切るようであれば、所詮私の眼が曇っていた……それだけの事だ。
「愛紗。この戦が終わったら、一度ゆるりと話したい。良いか?」
「ご、ご主人様と……ですか?」
「不服か?」
「い、いえっ! 私のような武骨者が相手で宜しいのかと」
「おやおや。何故に赤くなるのだ、愛紗?」
「照れているのだ」
「う、煩いお前たち!」
そのやり取りを見ていた周囲の兵達に、笑いが広がる。
戦を前にして、些か緊張感に欠けている気もするが、我が軍は不正規軍。
気の弛みさえなければ、過度に緊張するよりは、却って良いのやも知れぬ。
「歳三様。布陣、完了しました」
「風の方も終わりましたよー」
「よし。皆集まれ、軍議を開く」
「はっ!」
天幕などと大層なものなどない。
そこがそのまま、本陣となる。
「稟。作戦を説明してくれ」
「はい。敵はこの大興山に籠っています。数は、廖化の情報通り、ほぼ五万との事です」
「まともに当たっては、いくら相手が賊軍とは言え、厳しいものがある、か」
「そうです。とは言え、この軍を破らない限り、我らはここまで、となってしまうでしょう」
「前にも言いましたが、糧秣は明朝までしか持ちませんねー。鈴々ちゃんが食べ過ぎたらすぐですが」
「仕方ないのだ、鈴々は食べ盛りなのだ!」
「威張って言う事ではなかろう、鈴々」
「風も愛紗も止せ。鈴々だって、わかっているだろう?」
「当然なのだ!」
「ご主人様は、鈴々に甘過ぎます。もっと、厳しくしていただかないと」
「愛紗ちゃんに同意なのです」
「へへーん、愛紗達よりお兄ちゃんの方がわかっているのだ♪」
「無論、万が一にも風の計算よりも足りなくなるような事はない、それで良いのだろう? 万が一になれば、真っ先に疑われるのは鈴々だからな」
「う……。釘を刺されたのだ……」
「皆の者。主の差配には逆らうだけ無駄だぞ?」
「腹一杯食べたければ、勝つ事だ。そうだな、稟?」
「はい。程遠志ですが、率いる兵数は五万で間違いありません。ですが、糧秣が不自然な程、集められている形跡があります」
「不自然とは、どの程度なのだ?」
私の問いに、稟は眼鏡を持ち上げながら、
「確たる量はわかりません。ただ、廖化らの話をまとめると、程遠志はここを拠点に半年間は居座る予定だとか」
「五万が半年間か。無補給とは思わぬが、それでも数ヶ月、戦闘に耐えるだけの量があると見なして良いだろうな」
「つまり、あいつらをや
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ