第30話 困惑
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幕府、討つべし。
まさかの朝廷の勅命のより世の中は再び乱世になった。
揺れているのは幕府の柱だけではなく、世の中すべてが時代の揺れに巻き込まれ初めていた。
もとより、新撰組も同様だった。
近藤はすぐさま会津藩屋敷に呼ばれ松平容保呼ばれ密かに会談が行われた。
「近藤君、上様は長州と薩摩の馬鹿げた戦を早急に終わらせ再び安静の世を取り戻したいと願っておられる」
「ですが、容保公・・・・・」
近藤は容保に、いや、幕府自体に疑念を持ち始めていた。それ以前にやっとの思いで武士という階級に上り詰めたのにという思いもあった。
「近藤君、君の言いたいことはよく解る。が、朝廷も今は長州と薩摩に担がれているだけで、我らが勝てば目も覚めるだろう」
容保は一つ息を吐いて一気にまくしたてた。
「が、世が世だ。もし、上様になにかあったとしても我らについて来てくれまいか?この、容保、頭を下げて懇願する」
容保は近藤に近づき深々と土下座をした。
「滅相もありません。頭をお上げくだされ、容保公」
近藤は容保の態度に恐縮した。
「我ら新撰組、容保公のおかげで武士になり申した。礼を言わなければならないのは我らの方でございる」
確かに近藤はそう思っていた。が、
(上様に何かあったら?)
その言葉に疑念が残った。
近藤は会津藩邸を出ると冬の京都の寒さに身震いをいた。
そして、凍てつくような冬の夜空を見上げた。
数々の出来事があった。
新撰組が出来たころから内部での粛清で死んだ者たち。
芹沢鴨から始まり、山南敬介、伊東甲子太郎など多くの有望な志士を自らの手で粛清していた。そして、今や、ともに夢を追った沖田総司は病に倒れている。
ふーっと息を近藤は一つ吐いた。その息は白くそして消えて行った。
「なぁ、歳さん、俺たちの誠ってなんだったんだろうな?」
いつもそばにいるはずの土方に問うように近藤は一人つぶやいたのだった。
屯所の前に人影が見えた。
「近藤さん!!」
それは聞き覚えのある声だった。
「おぉー、歳さん。出迎えご苦労様」
近藤は手を上げて答えた。
「容保公の話はなんだったんだ?」
「いあ、なんでもないよ。ようは新撰組の働きに期待しているってことだけさ」
近藤はにこりと微笑んだ。
「そうか、ならいい」
土方は相変わらずぶっきらぼうな答えをかえした。
「なぁ、歳よ」
その背中に独り言でつぶやいた問いをぶつけてみようと近藤は思った。
「うん?なんだい?」
土方は近藤に振り返ることなく答えた。
「いや、なんでもない」
近藤は頭をごしごしと掻いて問うことをやめた。
「そうかい」
土方はゆっくりと屯所の門をくぐっていった。
おそらく、土方には気づいているのかもしれないと近藤はその背中をみて思うのだった。
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