黒に包まれ輝きは儚くとも確かに
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静寂に支配される場には幾重もの視線。二人の女を見つめる目、目、目。
豊満な胸や艶やかな肢体に厭らしく向けられるモノであるのか否か……隣に侍っている焔耶よりも随分長く生きてきた厳顔――真名を桔梗――だけが気付き得る。
男特有の視線は確かにある。兵士と言えば男ばかりだ、色気溢れる女が来ればやはり各所部位に目を奪われないわけがなく、自然と目で追ってしまうのも詮無きこと。
桔梗は自分の肢体や美貌が男の目を惹くことを理解している。この年まで戦場での生き様に拘って来たからか男とのあれこれなどあったことは無いが、やはり街を歩けば男の視線を集めていることなど気付かぬわけもない。
慣れたモノで、兵士達の見つめる視線を意にも返さず歩こうと……普段のように気当てを行って腰を抜かしてやるつもりだった。
ただ、此処に集まる男共は益州の兵士達とは少しばかり違った。
ぐ……と圧されたのは分かった。一人か二人か、確かに足が震えたのだろうことも分かった。だが、彼らはなんのことやあらんとその場で重心を保ち、鋭くぎらぎらと、生き生きとした視線を投げてきた。
口元には不敵な笑みが、瞳の奥には純粋な歓喜が、表情には期待と渇望が溢れていた。
――将が上モノなら兵士も上モノ……くくっ、さすが……これが噂に聞く黒麒麟の身体かよ。
焔耶は気が立っているのか、彼らがどれほどの上モノか理解していない。男に囲まれている事に対して不快感を隠そうともしていなかった。
いや、待たされているという事が余計に彼女を苛立ちに染めている一番の理由であろう。
落ち着きなく靴を鳴らし、兵士達の視線に耐えながらも待つこと幾分……漸く目当ての男が場に現れる。
黒一色。夜に溶け込むかのような闇色。歩む速度は別段急ぎも感じさせずゆったりと、羽のような外套と背中に背負う異質な長剣が足を進める度に揺れていた。
隣には眠たそうに目を擦る少女が一人。昼間に二人が出会ったモノとは違うことに一寸驚いたが、軽装を纏っている姿から武人だと理解し桔梗と焔耶の二人は気を僅かに引き締める。
「アニキぃ……あたい眠いんだけど」
「文句なら突然来た客人に言ってやれ」
「文句言うのもめんどくさい。ってかさ、アニキが出るなら寝かせてくれてもいいじゃん。詠だけずるい」
「えーりんはいいんだよ。俺への客に対応なんざしなくていい。第九の部隊長が兵士全員揃ってる中に居ない方が問題だっての」
「うぅ〜……それでもさぁ……」
「ほら、しゃきっとしやがれ。奴さんが見てるぞ」
「む……」
緩い会話が二人にも聞こえる。緊張感の欠片も無い彼らに対して、焔耶のこめかみにまた青筋が走った。
「桔梗様」
「よいよい。こちらが急に押し掛けたんじゃ、門前払いされんかっただけマシじゃろうて」
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