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乱世の確率事象改変
黒に包まれ輝きは儚くとも確かに
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も受け入れて策すら呑み込むのは華琳の遣り方だ。
 秋斗は同じことはしない。裏切りは可能性から根絶する。絶対に味方になるという確信を持てなければ、明のように利用することすら無い。
 元より、たかだか五千の兵しか連れて来ていない彼が、ただでさえ危うい橋を自ら叩き壊して渡るような愚を犯すはずが無かった。

「……なんとまぁ、用心深いことよの」
「俺は臆病なんでね。クク……どうせお前がどう動こうと、この益州は戦火に沈むがな。お前の話は聞かなかったことにする。せいぜい俺が引き入れる乱世を楽しんでくれよ」

 腕を頭の後ろに、椅子をキコキコと揺らし、悪役さながらに彼は桔梗と焔耶を見据えるだけ。

――やはり、一筋縄ではいかん相手か。しかし……昼間といい今といい、何故こやつは……

 思考に潜る桔梗は彼の発言に引っ掛かりを覚える。
 どちらに転ぶにせよ情報くらい引き出そうと思っていた彼女ではあるが、引き出せない上にまるで舞台の観客のような立ち位置に居続ける彼を不気味に思った。

「お前は戦わんのか?」
「お前らが俺達を殺しに来るなら戦うさ。俺達全員を殺した後でボロボロのまま曹操軍と全面衝突する気概があるのなら掛かって来い」
「自分達は殺されてもいい、と?」
「ははっ」

 再び問いかけた……瞬間、彼の纏う空気が変わる。長剣の柄を握り、尖った視線が突き刺され、重苦しい戦場の空気が満たされていく。

「さっきもそうだったし昼間っからも思ってたけどよ……お前ら二人共、俺達を簡単に殺せると思ってやがるよな? たかだか五千余りの一部隊に何が出来るって思ってんだろ?」

 ビシリ、と場に流れる気が張りつめる。彼の口元から、笑みが消えた。

「……あまり俺の愛しいバカ共を舐めてくれるな」

 静かで緩い声音が耳に響くも……鋼のように重く、氷のように冷たい殺気が場を包んだ。
 背中に背負った長剣に手を掛けただけで、まるで此処が一騎打ちの場になったと同じく。
 たらり、と桔梗の頬に汗が伝った。緊迫した空気をこれほどまで張り詰めて感じたのは初めてのこと。
 先ほどは部隊の者達の心力に歓喜が浮かんだ。今度は……秋斗個人が部隊に向ける想いの強さに彼女は呑まれた。

――これが黒麒麟か……己の部隊に其処まで思い入れがあるのなら、袁家の二枚看板を部隊長程度に置くのも納得できるというモノ……。

 渦を巻く黒瞳の奥底には、怒りとは違う昏い感情が在った。
 それは信頼と似ているが余りに歪な……狂信、と誰もが評するモノだった。
 耐えきれずちらと隣に目を向け、嬉しそうに笑っている猪々子を見つけて呆気に取られる。

「そん中にあたい達も入ってる!?」
「……一応は」
「一応ってなんだよ!」
「クク、お前達はバカ共とちょっと違う
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