番外編・弟と別れてから
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だ。窓を開けると冷たい風が入ってきて、それが頬を撫でる感触が心地いい。さっきまでのパーティーでほてった身体を優しく冷やしてくれる。
向こうにいた頃、私はよく夜になるとベランダに出て、月を眺めながら鎮守府の皆を思い出していた。金剛お姉様や司令、榛名や霧島……もう会えないかもしれないけれど、この家族と新しい生活を営むのも悪くないのかもしれない……自分にそう言い聞かせ、やっと決心がつき納得出来た時に、現実をつきつけられ、この鎮守府に戻された。
鎮守府に戻れたことはうれしかったし、久々にみんなの顔を見ることが出来たこともうれしかった。うれしかったのだが、一つ足りないものがあった。喜びを分かち合うべき人が、一人足りない。
―姉ちゃん!!
私は壁に立てかけた大切なバットを手に取った。シュウくんが私にプレゼントしてくれた、今の私にとって何よりもかけがえのないものだ。あの夢のような日々は本当にあったことなのだということを……私の大切な弟は確かにいたのだということを教えてくれる、とても大切なものだ。
「ひえーい。起きてマスかー?」
不意に、ドアの向こうから金剛お姉様の声が聞こえた。自分も知らないうちに目に溜まっていた涙を私は手で拭った。
「はーい。起きてますよお姉様」
「久しぶりに一緒に紅茶でもどうデスか? 両手が塞がってるからドアを開けて欲しいデース」
私は慌ててバットを立てかけドアを開けた。ドアの向こう側には、両手に紅茶の入ったティーカップを持った金剛お姉様が笑顔で立っていた。
久しぶりに飲む金剛お姉様の紅茶は本当に美味しかった。香りも味も何もかも、私が淹れた紅茶とは段違いで比べ物にならない。
―美味しい……姉ちゃん、紅茶淹れるのうまいね。
でもなんでいつも僕にココア作らせるの?
「もっとちゃんと、金剛お姉様に紅茶の淹れ方を教わっておけばよかったなぁ〜……」
「What? どうしマシタ?」
「やっぱり金剛お姉様の紅茶は美味しいな〜……と思いまして」
「サンキューねー比叡!」
自身が淹れた極上の紅茶の香りを楽しみながら、金剛お姉様がバットに気付いた。お姉様は机に紅茶を置き、そのバットに手を伸ばす。
「このバット、比叡を見つけた時、大切そうに持ってたデスネー。けっこう凹んでるようデス」
「はい! このバットは、とても大切なものなんです」
―チクッ
「しばらく会わないうちに、比叡には大切な思い出が出来たようデスネー」
「そうなんです! 聞いて驚かないで下さいよお姉様!!」
―チクチクッ
「実はですねお姉様!! ……私たちに……!!……おと……」
おかしい。話をしようとすると、喉が痛くなり、胸が締め付けられて声が出なくなる。向こうの話は、私に
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