11.姉ちゃんが消えてから
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あの日、姉ちゃんが消えた後僕は気を失い、救急車で近所の病院に運ばれたと母さんから聞いた。命に別状はなかったもののけっこうヒドい打撲症を全身に負っていたらしく、二週間ほど入院するように……と医者から言われた。
「シュウ? 比叡ちゃんは?」
気がついてひとしきり落ち着いた後、母さんにこう聞かれた。僕は、見えない誰かに指で押し潰されているのではないかと思うほどに痛い喉から、必死に声を絞り出して答えた。この痛みは、あの日大声を出しすぎたからじゃない。
「姉ちゃんは……帰った」
「え?」
「うん……自分の……鎮守府に、帰った。“ありがとう”って……母さんの料理、美味しかったって……父さんの朝のニヤニヤ、もっと見たかったって……」
そこまで言うのが精一杯だった。これ以上は締められた喉が震えて、痛くて痛くて声にならなかった。僕の様子を察してか、母さんはそれ以上聞かず、父さんも何も言わず、ただ肩をぽんと叩くと、母さんを連れて部屋から出て行ってくれた。父さん、ありがとう。
それから一週間の間、僕は日中は病院でヒマを持て余した。なんせ一日中やることがなく、自分でやることを探さなきゃいけないという状況は初めてだ。最初のうちは、まだ体中が痛くベッドの上から動くことも出来なかったので、さらにヒマが苦痛で仕方ない……。朝までひたすら眠り、朝食を食べたら昼食までひたすら眠る。昼食を食べたらまた睡眠で……という具合に寝てばかりの状況だった。まぁ体力がなくなってたし、ちょうどよかったのかも。
ただ、どれだけ手持ち無沙汰でも、テレビだけは見る気になれなかった。あの日のことを思い出してしまいそうだったから。
「なんだ。先輩、思ったより元気そうじゃないですか」
体力も戻り身体の痛みが取れてきた頃、秦野がお見舞いに来てくれた。部員みんなを代表して、お見舞いに来てくれたとのことだ。
「ありがと。でもなんで秦野なの?」
「みんなが、お見舞いの役は私しかいないと……様子を見たかったのでちょうどいいですけど」
不思議と会話に詰まるけど、沈黙が気まずい関係ではなかったからよかった。
「そういや先輩。ちゃんと伝えられました?」
「ん?」
「ほら。この前神社で話してくれた……」
少しだけ、目に涙が溜まった。
「ぁああれか。言ったよ。ちゃんと受け止めてくれた」
「そうですか」
「ありがとう。秦野に相談に乗ってもらってよかった」
かなりの勢いで涙が溜まってきた。こんな姿を秦野に見せるわけにはいかなくて、僕は秦野から目をそらし、うつむいて目を拭いた。
その時、懐かしい感触が僕の頭に触れた。秦野が立ち上がり、僕の頭をくしゃくしゃっと撫でてくれたのだった。この感触は、神社で、僕の部屋で、ウチの居間で、
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