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姉ちゃんは艦娘
9.姉ちゃんと共に来たもの
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てくれた紅茶だった。なんでも姉の金剛さんが紅茶が好きで美味しい紅茶を淹れるのが得意らしく、お姉様大好きな比叡さんもそれを真似ているうちに、紅茶を淹れるのが得意になったんだとか。ならなぜ今まで紅茶を淹れてくれなかったのか……比叡さんにそう文句を言ったら、

「え〜……だってシュウくんのココア飲みたいし」

 というあまり答えになってないような答えが返ってきた。字面だけ見ると五歳児のようなセリフだけど、見ようによっては殺し文句にも見えなくもない……

 ベランダで比叡さんと一緒に、夜景を見ながら紅茶を飲む。外気にあてられいい感じに温度が下がったためか、紅茶を飲んでも今回は『あちゃちゃ』とは言わなかった。紅茶に対する並々ならぬこだわりを持つ姉直伝の比叡さんの紅茶は、確かにお店で売られている普通の紅茶とは比べ物にならないほど美味しい。

「……姉ちゃん、どうだった?」
「さっきの話と、あのゲーム?」
「うん」

 比叡さんに聞く事自体怖かったけど、聞かないわけにも行かない。伝えた以上、ちゃんと結果を知る必要がある。

「シュウくんがあのゲームのことを知ったのは、倒れた日?」
「うん」
「そっか」

 比叡さんは僕から視線を外し、遠くの港を眺めた。さっきはまだ離れた場所にいた貨物船が、今はもうだいぶ近くまで来ているのが分かった。

「最初に話を聞いた時はね。『シュウくんがついにおかしくなった……』て思ったよ」

 だろうね。僕自身そう思ったもの。

「……でもシュウくんにあの動画を見せられて、何度も見てるうちに『そうなのかもしれない』って思って……あと、すごくイライラしてきて。金剛お姉様や私達の命がけの戦いが、ここではあんなゲームでしかないだなんて……って」
「だよね……」

 気持ちは分かる。もし僕があれだけ本気で臨んだ夏のコンクールが、岸田にとってのリズムゲームでしかなかったとしたら……もし、僕が二年半のすべてをぶつけて臨んだあのコンクールが、岸田にとっては単なるリズムゲーの難易度ハードのステージでしかなかったのだとしたら、僕だって気持ちが穏やかではいられない。生きるか死ぬかの世界で生きてきた比叡さんならなおさらだろう。たとえ岸田が、戦死者を出さないように細心の注意を払ってプレイしているとしても。

「でもね。その時シュウくんを思い出したの」
「僕のこと?」
「うん。シュウくん、いつもバカなことやって空回りしてる私のこと、すごく大切にしてくれてたんだなぁって。だから、きっとこれを見てショックを受けて倒れちゃったんだなぁ……さっき私に話をするときも、コンクールの時みたいな泣きそうな顔で話してたんだなぁ……シュウくんは優しいんだなぁ……って」

 比叡さんはそう言い、まっすぐに僕を見据えてニコっと笑う。
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