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姉ちゃんは艦娘
9.姉ちゃんと共に来たもの
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画の再生を繰り返した比叡さんの態度が、僕にはとてもつらい。僕は自分の部屋に比叡さんを残し、居間に向かった。部屋を出るときにちらっと見えた比叡さんの背中は、今まで見たどの比叡さんよりも、刺々しく見えた。

 居間についた僕は、フとベランダを見た。最近、僕が夜に居間に来ると、いつも比叡さんがベランダで夜空を見ている印象がある。

 ベランダに続く窓を開けてみた。開けた途端、涼しくて心地よい風が居間を吹き抜け、レースのカーテンが優しくたなびく。外に出てみた。もう夜中なため、見える景色の明かりは少ない。ただそれでも、遠くで車や電車が走る音が心地よく、見上げれば所々星が見えるいい天気で、綺麗な月が出ていた。

 はじめてここで夜空を見上げる比叡さんを見た時から、比叡さんが何を考えながら夜空を見ていたのかを時々考える。なぜ比叡さんは、ここでいつも夜空を見上げていたのだろう。なぜ夜空を見上げる比叡さんの背中は、あんなにも美しく、それで儚げで、声をかけただけで消えてしまいそうに見えたのだろう。

 今まではよく分からなかったが、今日はなんとなく分かる気がした。比叡さんは、姉の金剛さんや妹の榛名さん、霧島さんたちに、思いを馳せていたのではないだろうか……。僕は……僕にとっては、比叡さんがいなくなってしまうのはイヤだし、考えられなかった。だが、やはり比叡さんは帰りたかったのではないだろうか。比叡さんを見てると、毎日とても楽しそうに過ごしていたように見えたが、それでもやはり心のどこかでは、愛する姉妹の元に……鎮守府のみんなの元に帰りたかったのではないだろうか。そう考えていると、『帰ってほしくない』とわがままを言っている自分が恥ずかしくなった。

 僕の家のベランダからは港が見える。港の遠くの方から、1隻の大きな船がこっちに向かっているのが見えた。その船は貨物船のようで、巨大な船体のところどころにライトが付いているのがここから見ても分かった。

 夕方、秦野のポニーテールを揺らすほどの強さだった風は、その力をすっかり弱めていた、柔らかく冷たい風は、僕の頬を撫でるように駆け抜けていく。

「ひぇぇぇ……これでは……ッ」

 背後から声が聞こえた。それまで僕は窓に背を向けて景色を眺めていたのだが、振り返ると、そこには両手にティーカップを持ち、網戸の前で困った顔をしている比叡さんがいた。

「姉ちゃん……」
「シュウくんどうしよう……両手がふさがって網戸が開けられない……しょぼーん」
「……僕が開けるよ」
「パァアアアアア……ありがとうシュウくん!!」

 正直なところ、先ほどの比叡さんの姿とはまったく違う、言ってみれば元に戻った比叡さんの姿に僕は多少の戸惑いと、それ以上の安心を感じた。

 比叡さんが両手に持っていたのは、比叡さんが淹れ
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