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大蛇
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第一章

                       大蛇
 アマゾンにいると言われている。それは伝説だった。
 途方もなく巨大な大蛇。その話は今も伝えられている。
「それでいるんですか」
「いるのだ」
 キホーテ博士は助手のパンチャに対して話していた。随分と高齢の学者でありその長い顎鬚は白くなっている。痩せた細長い顔立ちの長身の人物である。
 それに対してパンチャは小太りで愛想のいい顔をした中年の男だ。二人はリオデジャネイロの大学にいる。一応生物学者ということになっている。
 しかし大学では彼等はこう呼ばれている。『ドン=キホーテとその従者』だと。
 その仇名は彼等の名前に拠るところが大きい。キホーテとパンチャという名前を聞いて誰もがまずあの物語を思い出すからだ。
 おまけにその容姿もである。キホーテ博士もパンチャ助手もその容姿はそのまま物語の二人である。だからその仇名に誰もが納得した。
 その二人だが学者としては優秀だった。優れた論文を幾つも書いている。しかしだった。その仇名通り彼等は冒険心に満ちていた。そうして今はこんなことを話しているのだった。
 夕食にやたらと大きな牛のステーキを食べながらだ。そのミディアムのオニオンソースとバターを上に乗せたステーキにフォークとナイフを入れつつ。キホーテ博士はパンチャに言うのだった。
「それは間違いない」
「それで根拠は?」
 パンチャも彼と同じステーキを食べながら博士の言葉に応える。
「あるんですか?」
「なくて言うと思うか?」
 こう返す博士だった。
「ちゃんとあるのだ」
「あるんですか」
「目撃例が幾つでもあるのじゃよ」
 博士はまた彼に話した。
「それこそ幾つもじゃ」
「そうなんですか」
「二十メートルはあるらしいのう」
 博士はステーキの肉を切った。それを口の中に入れてまた食べる。そうしてだった。
「それこそのう」
「二十メートルですか」
「それより大きいものもおるそうじゃ」
 さらに話す博士だった。
「アマゾンにはおるのじゃよ」
「嘘みたいな話ですね」
 パンチャはその話を聞いて首を捻った。
「それだけ大きなのがいるなんて」
「それでじゃ」
 ここまで話してパンチャにさらに話してきた。
「アマゾンに行くぞ」
「えっ、行くんですか」
 パンチャはそれを聞いてまずあ驚きの声をあげた。信じられないといった顔でだ。
「アマゾンにですか」
「何か困ったことでもあるのか?」
「そりゃ困りますよ」
 こう返すパンチャだった。言葉を返しながら顔を顰めさせている。
「あのですね。いつもいきなり言いますけれどね」
「それがわしじゃ」
 しかし博士は胸を張って返すのだった。話す間にもステーキを食べ続け何時の間にか全部食べていた。
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