第一部
第六章 〜交州牧篇〜
八十六 〜夜戦〜
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番禺を出て、数日。
我が軍は、まさに迅速そのものである。
彩(張コウ)と星、それに鈴々が鍛え上げた兵は、動きに無駄がなかった。
これだけの規模ともなれば、最早私が調練に口を挟む余地もない。
より優れた者に任せるのが最良と思っていたが、その判断に誤りはないようだ。
「殿、漸く実戦ですな」
「腕が鳴るのだ!」
「ふふ、主と共に城外に出るのも久しぶりですな」
先を行く愛紗と、後方の紫苑も、やはり多かれ少なかれ昂っているのであろうか。
……私もご多分に漏れず、些か気分が高揚しているのは否めぬのだが、な。
やはり、終日机に向かったままというのは、あまり性に合わぬ。
無論、我を通してしまえば愛里らに負担をかけるだけ、そのような真似は出来ぬが。
「歳三殿、只今戻りました」
疾風(徐晃)が、偵察から戻って来た。
「よし、全軍止まれ! 小休止を取る!」
「応! 全軍、小休止!」
伝令の兵が、四方に向かって駆けていく。
これだけの軍勢、敵の目を完全に欺くのは不可能であろう。
寡兵を以て奇襲をかける策も検討されたが、それでは賊軍を徒に散らばらせてしまう懸念がある。
四郡に留まれば良いが、仮に江夏や江陵などに逃げ込まれたら厄介だ。
未だに劉表からは何の音沙汰もない以上、迂闊に戦線を拡げては要らぬ謗りを受けよう。
下らぬ意地に固執すればするだけ、苦しむのは庶人なのだが。
ともあれ、此所まで来れば、無為に兵を疲弊させる事もあるまい。
「歳三様。愛紗や紫苑殿も呼びますか?」
「いや、良い。軍議の結果を伝えるだけにせよ。今は時が惜しい」
「御意」
稟だけでなく、風も異論はないようだな。
地図を指し示しながら、疾風が報告を始めた。
「まず、賊軍ですが。現在長沙郡と桂陽郡は完全に支配下に置いています。零陵郡と武陵郡も大部分を侵されている模様です」
「風。零陵と武陵の太守は?」
「劉度さんと金旋さんですねー。今のところ、まだご無事のようですが」
「趙範の様からすれば、其奴らに期待するだけ無駄だな」
吐き捨てるように言う彩に、星や鈴々らも頷いた。
「ただ、見殺しには出来ますまい。無論、間に合えばですが」
「うむ……。疾風、両者と連絡はつけられるな?」
「はい。既に手の者を遣わす準備をさせています」
相変わらず、手際のいい事だ。
「稟。両郡の城だが、どのぐらい保つと見る?」
「はい。賊軍の勢いから見て、凡そ一週間かと。勿論、その前に城兵が降伏すれば話は別ですが」
「城が落ちれば、より多くの庶人が泣く事になろう。それは何としても防がねばなるまい」
「殿の仰せの通りだ。それで疾風、賊の規模は?」
「正確にはまだ把握できていない。ただ、十万は下らない事だけは確かだ」
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