8.姉ちゃんの正体
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てよく見えなかったが、今まで見たどの秦野よりも、今の秦野の表情は優しく見えた気がした。
「先輩、こうして欲しそうな顔してました」
「そお?」
「はい。……先輩?」
「ん?」
「多分ですけど、その人もきっと私と同じです。先輩の言葉なら、どんな言葉でもきっと受け止めてくれます」
「……」
「だから、話してあげて下さい」
風が止み、秦野のポニーテールの揺れが止まった。僕は頭を撫でてくれている秦野の右手を掴んで頭から話すと、そのまま勢い良く立ち上がった。
「ありがとう。秦野のおかげで勇気出た」
「キャラメル3つで手を打ちます」
「そんなにキャラメル好きだったっけ?」
「好きですよ。多分、先輩にとってのクールミントよりも好きです」
そういってケラケラと笑う秦野は、いつもの秦野に戻っていた。
僕は秦野に別れを告げ、家路を急いだ。もしぼくの推論が間違いであるならばそれでよし。当たっていたとしても、秦野の言うとおりなら、きっと比叡さんは僕の話を受け止めてくれるだろう。
少なくとも、約束をしたのにずっと黙って悶々としているよりはいい。正直怖いし緊張もする。足だって重いし、さっきから心臓はバクバクしている。手には力が入らず、話す時のことを考えただけで顔から血の気が引くほどに、僕の気持ちは怖気づいている。
それでも話す。重い足を力づくで引きずり、少しでも早く家に着くように、僕は急いで歩く。うちのドアの前まで来た。鍵を開け、いつも以上に重く感じるドアを開ける。
「ただいま!!」
緊張で震えた喉から、僕はできるだけ大きな声でそう言った。家の中に漂う匂いから、今日の晩御飯のメニューは麻婆豆腐だということが分かった。
「ふぅふんふぉふぁふぇふぃ〜!! おふぉふぁっふぁふぇ〜!!」
「比叡ちゃん? 口の中のご飯は飲み込んだら?」
廊下の奥から、麻婆豆腐の大皿を抱え、右手にレンゲを持ち、口いっぱいに食べ物を頬張った比叡さんが、笑顔で僕を出迎えてくれた。
「……」
「ごくり……ふぃ〜……あれ? どうしたの?」
なんだか、そんな比叡さんをずいぶん久しぶりに見た気がする。郷愁にも似た感覚を比叡さんの表情に感じ、何やら胸がいっぱいになった僕は、目に涙が少し溜まったのを自覚した。
「ただいま姉ちゃん」
「うん! おかえりシュウくん!!」
僕は覚悟を決めた。今晩、僕はひょっとすると、比叡さんのこのお日様のような笑顔を曇らせることになるかも知れない。それでも話す。比叡さんなら受け止めてくれると信じて。
「姉ちゃん。今晩話をしよう。わかったことを話すよ」
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