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真田十勇士
巻ノ二十一 浜松での出会いその七
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「何しろ嬉々として駿府に入られたそうじゃからな」
「幼い頃の楽しい思い出が、ですか」
「あの町にありますか」
「それで喜んで戻られ」
「拠点にされましたか」
「無論あの町が何かと治めるのによい町だからでもある」
 駿河、ひいては東海でもとりわけ賑やかな町だ。遠江、三河も含めた三国で最も栄えている町でしかもその三国の中心と言ってもいい。
「しかしな」
「そのことと共にですか」
「あの町がお好きだから」
「それで、ですか」
「家康殿も入られたのですか」
「そう思う」
 こう家臣達に話すのだった。
「駿府についても家康殿についてもな」
「ですか、では次は」
「その駿府にですな」
「向かわれますな」
「そうするとしよう、この鰻を食し一泊してからな」
 そうしてからというのだ、こう話してだった。
 幸村は家臣達と共に鰻を楽しんだ。そしてだった。
 その鰻を楽しんでからだった、一行は浜松でもそれぞれ別れ道で芸をして旅銭を稼いだ。幸村はここでも講釈をした。
 その一服で茶屋の外の席、細長い一つになった席に横に座って茶を飲んでいるとだ。その横に。
 彼と同じ位の背丈の浪人が来た、身なりは総髪で質素な身なりだが。
 雰囲気は尋常なものではない、だが幸村は雰囲気については何も言わずそのうえで茶を飲み続けていた。
 するとだ、浪人から彼に言って来た。
「若し」
「何でしょうか」
「旅の方とお見受けしますが」
「左様です」
 そうだとだ、幸村は浪人に答えた。
「拙者今は諸国を巡っております」
「やはりそうですか」
「それが何か」
「いえ、お身体から旅の匂いがしましたので」
「旅の匂い」
「左様です」
 それが匂っているというのだ、幸村には。
「それが匂っていますので」
「それでおわかりになられたのですか」
「そうでした」
「ですか」
「してこれから何処に行かれますか」
「東に」
 幸村は浪人にこう答えた。
「そうされます」
「では楽しまれて下さい」
「東の方も」
「あちらも何かとよい場所です。特に」
「特にとは」
「若し時に余裕があれば」
 その時はというのだ。
「相模に行かれてはどうでしょうか」
「相模ですか」
「箱根を越えて小田原まで」
「小田原の城をですか」
「見られるのもいいです」
「あの城はとてつもなく大きな城でしたな」
「町がそのままです」
 浪人は小田原城のことをだ、幸村に話した。
「堀と壁に囲われている」
「本朝にはなかった城ですな」
「明や南蛮は違うそうですが」
「書を読み話を聞く限りです」 
 幸村はその明や南蛮の城、見聞きしているそれについて浪人に答えた。彼の見聞は本朝だけのことに留まらないのだ。
「本朝の城の方が珍しい様ですな」

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