第一部
第六章 〜交州牧篇〜
八十五 〜再始動〜
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その言葉に、風が一瞬、ほくそ笑む。
そして、素知らぬ顔で言い放つ。
「お兄さん。これは立派な義戦だと思うのですよ」
「義戦?」
「はいー。趙範さんは郡太守として、庶人の皆さんを救いたいとお考えなのですよね?」
風の言葉に、したり顔で頷く趙範。
「当然ですな。桂陽郡に住まう者に対し、私はその責務があります」
「それならば、劉表さんにもお兄さんが出兵する事、お伝え願えますかー?」
「お安い御用です。お任せあれ」
「主。趙範殿がここまで仰せなのです、私も風に賛成です」
「おお、流石は趙雲将軍。やはり、縁者という者はありがたいですな」
……微かに、星が眉を顰めたようだ。
だが、趙範がそれを察した様子はない。
「おお、そうでした。土方様にお礼を差し上げねばなりますまい」
そう言って、趙範は後ろに控えていた女を指し示した。
「この者は、私の妻でしてな」
「奥方か」
「はい」
この男には似合わぬ、とまでは言わぬが、容姿端麗の美女と言って良いだろう。
「土方様、この者をお側に置いて下され」
「何?」
「聞くところによれば、土方様は女子をお好みとか。私からのお礼でございます」
「……本気で申しておるのか?」
「このような事、冗談で申し上げるつもりはありませんぞ」
恐らく、趙範なりの好意のつもりなのだろう。
……だが、周囲に控える星や風らの表情が、みるみるうちに険しくなってきた事には気付いておらぬようだ。
「無論、本人も承知の上でございますぞ。名高き土方様のご寵愛をいただけるならと」
思わず、私は腰を浮かせた。
と、その時。
趙範の身体が、宙に浮いた。
「う、うわっ!」
「……貴様。主に向かって何と無礼な!」
星が、趙範を手加減無しで殴りつけていた。
「趙雲将軍! な、何をなさる!」
「何を、だと? ふざけるな、この下衆が!」
怒りをたたえた眼で、趙範を睨み据えている。
「我が主を愚弄するとは。この場で成敗してくれる!」
「ぐ、愚弄ですと? 私は、せめてものお礼と好意で申して……ギャッ!」
再び、星の拳が叩き込まれた。
「まだわからぬか! 貴様のような者が、私の縁者などと……恥さらしもいいところだ」
「な、な……。土方様!」
理不尽と思ったか、趙範が私に向け、抗議の声を上げた。
「……本来であれば、その頸、この場で刎ねているところだが。貴様のような者を斬っても、我が剣の名折れ」
「ぶ、無礼ですぞ!」
「兵は出す。だが、それは貴様のような屑の為ではない。虐げられている庶人の為だ」
そして、私は兵に合図し、趙範らを連れ出させた。
「主、申し訳ありませぬ。忍耐の限度を超えてしまい、あのような真似を」
「良い。お前が殴らねば、私が手を出していた
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