第一部
第六章 〜交州牧篇〜
八十五 〜再始動〜
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言ではないのだ」
「はい、肝に銘じております。では!」
飛び出して行く疾風を見送ってから、紫苑も腰を上げた。
「紫苑。璃々はどうするつもりだ?」
「……可愛そうですけど、番禺に残すより他にありませんわ。戦場に連れて行く訳にはいきませんから」
「ふむ。だが、まだ親離れをさせるには酷な年頃だぞ?」
「ええ、わかってますわ。……ですが、私は母親である以前に、歳三様にお仕えする将です」
「それで、璃々は納得するのか?」
「させます。私の娘ですもの」
本当に、それで良いのであろうか。
早くに両親を亡くした私に、親子の情愛を語れる筈もないのだが……あの真っ直ぐな性根が、歪んでしまう事にならないか。
「歳三様、お気遣いは大変有り難いのですが。何故、そこまで璃々の事を気にかけて下さるのですか?」
「ふっ、似合わぬか?」
「いいえ。確かに、璃々は歳三様によく懐いているようですし」
「私は、未だ所帯を持った事はない。……が、娘が一人いる」
「董卓様の事ですね?」
「そうだ。請われて父娘の契りを結んだが、実の娘と思っている」
「…………」
「無論、璃々よりも年上で、歴とした官職にある身。だが、璃々を見ていると月の事を思い出すのだ」
「ふふ、そうでしたか。果報者ですわ、璃々は」
紫苑は柔らかな笑みを浮かべる。
「歳三様のような、強くて凛々しい御方に、そこまで思って貰えるんですもの。少し、妬けてしまいますわ」
「ふっ、戯れを申すな」
「そのような事ありませんわ。……本当に、歳三様が璃々の父親であったなら」
紫苑には似合わぬ、不明瞭な物言いだ。
「紫苑。今何と申した?」
「いいえ、何でもありませんわ。うふふ」
気になるが、重ねて問い質しても恐らく答えぬな。
「……紫苑。璃々は、今がどのような世であるかは承知だな?」
「はい。それは、物心がついてから何度も教え諭したつもりです」
「うむ。ならば、やはり一緒に連れて行くが良い」
「ですが……」
「何も、共に戦場に立てとは申さぬ。紫苑、お前には輜重隊の護衛を任せる」
「輜重隊、ですか」
「そうだ。私が指揮を誤らぬ限り、行軍中は安全な場所と思うが?」
「……ただ、お側で戦えなくなってしまいますね」
「それは違うぞ、紫苑」
「わかっていますわ、これは私の我が儘。……歳三様のご配慮、有り難く頂戴致します」
そう言って、紫苑は深々と一礼する。
「我ながらお節介とは思うが、許せ」
「いいえ。本当に果報者ですわ、璃々も……そして、私も」
一つ、懸念事項が片付いたな。
皆には多忙な思いをさせているのだ。
内々の事ぐらい、自分でやらねばな。
更に数日後。
桂陽郡が、区星の手に落ちたと急報が入った。
「つまり、賊軍は南下を続
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