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海牛
1部分:第一章
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ィシネフスカヤに言うのだった。
「ですから後は交代のペアに申し次をして」
 ここに来ているのは彼等だけではない。日露の学者達がこの調査船に乗り込み調査に当たっているのである。丁度その海の調査の時間の交代となったのである。
「それで後は」
「中で休みますか」
「ウォッカが待っていますよ」
 大山田は静かに笑って彼に述べた。
「ですから」
「ウォッカですか」
「ここに居続けていればそれだけ身体を冷やしてしまいます」
 また彼に言う。
「ですから。休憩の時はやはり中で」
「ウォッカで身体を暖めると」
「食事もありますし」
 ここでは少し笑みが深くなった。
「それで一息つきましょう」
「そうですな」
 ヴィシネフスカヤも笑顔になった。あまり深刻な顔のままでいるのにも疲れたのだろうか。その顔に綻びが入るとそれで話が進むのであった。
「ではそういうことで」
「それでは」
 こうして二人は船の中に入った。船の中にはベッドや小さなテーブルに船体にそのまま付けられた椅子といったシンプルな生活用具がある。そこに三人程度詰めている。二人は階段でそこまで降りたのだ。すると二人は残っていたその面々に手を振られて声をかけられたのであった。
「おかえり」
「御飯ね」
「ええ、そうよ」
 大山田がにこやかに笑って彼等に答える。やはりそこにいるのもロシア人と日本人だった。彼等はそれぞれの手にパンや酒を持って楽しくやっていた。
「ウォッカあるわよね」
「あるよ。ほら」
 金髪の若い女性が二人に瓶を出してきた。透明の酒がそこにある。
「ピロシキもあるわよ」
「缶詰めもな」
「鯨あるかしら」
 大山田はにこりと笑って彼等に言ってきた。
「鯨の缶詰めも持って来てる筈だけれど」
「ええ、これね」
 その若い女が早速テーブルの下から出してきた。日本語と鯨のイラストが目につく。
「そうそう、それそれ」
「どうぞ。それにしてもこれって」
「何?」
「結構美味しいわね」
 にこりと笑って大山田に答えてきた。
「鯨って」
「そうでしょ。ロシアでは鯨は食べていいのね」
「ロシア人は他人が何食べようと文句は言わないわよ」
 彼女はこう大山田に述べるのだった。
「アメリカ人とは違うわ」
「そうね、それはね」
 ロシア人の美徳の一つでもあろうか。大山田もその言葉を聞いてまた笑みを浮かべる。
「有り難いわ」
「じゃあゆっくり休んでええ」
「二人共今日はこれで終わりよね」
「ああ、そうだよ」
 ヴィシネフスカヤはもう座っていた。そこで受け取ったウォッカの瓶を開けながら答えている。やはりウォッカが好きらしい。にこにことした顔になっている。
「我々はね」
「じゃあ後はしこたま飲んで寝るだけね」
「ウォッカってあれよね」

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