5.姉ちゃんは年上
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季節は夏真っ盛り。外では忌まわしいセミたちが命を振り絞ってミンミンだのジージーだのツクツクオーシだのとおぞましい求愛ソングで騒ぎ立てる、いわば異形の者共の間で繰り広げられる、戦慄の恋の季節。
今は夏休みにも関わらず、僕は毎日学校に顔を出している。理由は、夏には吹奏楽部のコンクールがあり、僕の部も例外なく、そのコンクールに向けての最後の特訓を行っている最中だった。
あの比叡さんの身体能力が発揮された戦慄の草野球大会のせいで練習のスケジュールは若干ズレ込んだものの、おかげさまで我が吹奏楽部は音、テクニック、そしてチームワーク……すべての点において昨年よりもバンドとして成長していた。一年間必死に練習した甲斐があった……
「おーし。こんなところで今日の練習はいいだろう。明日は本番だ。今晩はゆっくり休め」
「はい!!」
顧問が合奏練習のあとこう告げ、今日の特訓はいつもよりも早くに終了した。明日の本番に向け、今日はしっかりやすんでおけという配慮なのだろう。この日は居残り練習も禁止され、僕たちはさっさと家に帰った。
「というわけで、明日はコンクールです」
家での夕食時に、改めて僕は自分の家族にそう伝えた。今日の夕食のメニューは生姜焼き。比叡さんの皿にだけ生姜焼きがてんこ盛りになっていることには、もう突っ込まないようにしよう。
「ふぉっふぁ〜もしゃもしゃ。あふぃふぁふぁふぅふんふぉもしゃもしゃふぁふぇふふぁいもきゅもきゅ」
比叡さんが口いっぱいにご飯と生姜焼きを頬張りながら何か言っている。黙ってればキレイな人なのに……ほら生姜焼きのタレが口についちゃってるよ……。
「比叡ちゃん、口の中のご飯を飲み込んでからにしたら?」
「ごきゅっ……ふぃ〜……明日はシュウ君の晴れ舞台なんだね〜」
「うん。明日のためにずっと練習してきた。これが最後のチャンスだし、金賞獲りたいんだよね」
「去年はギリギリ銀賞だったんだもんな」
父さんがポテトサラダをつまみながらそう言う。僕にとってはあと一歩で金賞を逃した、悔しい思い出だ。
「そうだね。父さんは金賞獲ったことある?」
「おれはないな。中学時代はずっと銀だった。高校の頃は部員自体が少なくて出場すら出来なかったしな」
「私も金は獲ったことないわ……」
もし、僕が明日金賞を取ることが出来れば、親子二代に渡る悲願を達成したことになるな…俄然闘志が湧いてきた。
「比叡さん」
「ん?」
「明日、お弁当作ってくれる? 明日は比叡さんの気合弁当が食べたい」
なんとなく、自分に気合を入れるために比叡さんの力を借りたくなった。あの気合弁当を食べれば、比叡さんの力を借りることが出来る気がした。
「わかった! 気合!! 入れて!!! 作ります!!!!」
「
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