5.姉ちゃんは年上
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いや、比叡さんは気合いれなくていいです。あくまで気合弁当ってだけで」
「え〜……しょぼーん」
最近、やっと比叡さんのしょぼん攻撃をやり過ごせるようになってきた。あとひとつ、比叡さんは料理自体は別に下手ではないことも分かった。下手ではないのだが、必要以上に気合を入れて料理をすると、最後の最後で余計かつ致命的な一手間を加えてしまう性格のようだ。
うん。だいぶ比叡さんのことがわかってきたな。
その後はいつものようにお風呂に入って就寝。僕自身はいつもと変わらないつもりでいたんだけど、やっぱり気分が高揚して寝付けず、少し水でも飲もうと思って台所に向かった。
ぼくの家……といってもマンションの3階だけど……は台所から居間を通してベランダがよく見える。今日はベランダへ続く居間のカーテンが開いていて、ベランダの全景がよく見えた。
そしてベランダには、こちらに背を向けて立ち尽くす比叡さんの姿があった。
「あれ? なにしてるんだ比叡さん……」
比叡さんの姿に気付いた僕は、声をかけようかと居間に向かったのだが、なんだか比叡さんの背中からは、話しかけてはいけない真剣さというか、何か話しかけづらいものを感じて、声をかけることが出来なかった。
話しかけてさえしまえば、きっと比叡さんは『ひぇえええ?』とか言ってびっくりしながら振り返り、いつもの比叡さんのように『なんだシュウくんか〜……』と安心しきった笑顔を浮かべることだろう。
でも、その一歩に躊躇してしまう何かが、今の比叡さんの背中には感じられた。話しかけるといなくなってしまうような、話しかけると壊れてしまうような、そんな際どい脆さのようなものが、比叡さんの背中から感じられた。
僕は比叡さんに見つからないように、台所で静かに水を飲んで、そそくさと自分の部屋に戻った。なぜなんだ。あんな比叡さんを今まで見たことはないし、そもそも比叡さんを相手にそんなことを考えたことすらなかった。あの比叡さんに対して『話しかけづらい』だなんて……
その日は、翌日が大会という事実に対する緊張と、『話しかけづらい比叡さん』を見てしまったという困惑から、ますます目が冴えて眠れなくなった。最後に時計を見たのは夜中の3時頃だった。
「おはよう! はいお弁当!!」
翌日、比叡さんはいつもと変わらない様子で僕に弁当を渡してくれた。あまりにいつもと変わらなさすぎて、朝少し身構えた自分が少し馬鹿らしくなってしまった……
「ありがとう比叡さん」
「お姉ちゃん、気合! 入れて!! 作ったよ!!!」
そういって比叡さんはいつもの『押忍!』ポーズをしてみせた。まさかあの殺人的な料理で構成された弁当じゃあるまいな……
「大丈夫よ。比叡ちゃん鼻歌交じりに作ってたから」
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