第一部
第六章 〜交州牧篇〜
八十四 〜復活、青竜刀〜
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っ。まぁ、あの彩が心底惚れる御方を前にしては、仕方ないな」
「ああ、私は殿をお慕い申し上げているぞ。主君として仰ぐのに、これ以上は望めまい」
「それだけではないだろう?……おっと、失礼しました。歳三様」
根が真面目な飛燕も、親友の前ではこのような素顔を見せるのか。
人というもの、そう容易くは全てを推し量れぬな。
「お聞きになりたいのは、態々州牧たる御方が自ら訪ねて来た理由……そうですね?」
「そうだ。昨夜の話と、酒が呑みたいが故に、というだけではあるまい?」
「その通りです。歳三様もご承知の通り、睡蓮様は懸命に揚州の庶人が安心して暮らせるよう研鑽を重ねておられます」
「うむ。庶人を蔑ろにしてのさばれるような時勢ではない以上、至極当然であるな」
「ただ、揚州も黄巾党の乱以降、土地が荒れ果てています。……いえ、それは揚州に留まりませんが」
飛燕は、ふうと息を吐く。
「今のところ、飢餓にまで発展する様子はありませんが……建て直しが進むにつれ、食糧生産が課題となっています」
程度の差はあるが、我らと事情は同じという事か。
「待て、飛燕。確かに孫堅殿には以前食糧を援助して貰った恩はあるが。それを返せ、という事か?」
「違うわよ、彩。先だっての山越の一件、あれで睡蓮様は貸し借りなしと仰せだから」
「なら、何故食糧の話になるのだ?」
「だから、話は最後まで聞きなさいって。歳三様は魏郡時代より、農作について様々な新しい試みを取り入れていると伺っています」
「うむ。たまたま持ち合わせた知識を、皆に実践して貰っているに過ぎぬが」
「ふふ、またご謙遜ですね。……その一部でも、ご教示願えないかと」
「なるほど。農作技術移転を、という訳か」
「はい。無論、兵を養うという面もありますが……。睡蓮様も、揚州の庶人が飢えに苦しむ姿を見たくないとお考えなのです」
庶人の為、と言われれば断る理由はない。
「だが、一つわからぬ事がある」
「何でしょう?」
「農業というもの、全てを極秘裏に行うのは不可能だ。こうして態々頼まずとも、睡蓮ならば入手する事は出来るのではないか?」
「そうでしょうね。ですが、睡蓮様は歳三様相手にそれはしたくない、と」
「真っ直ぐな睡蓮らしいな」
「ええ。それに、将来の息子相手を出し抜くような真似をしたら娘達に恨まれる、とも仰せでしたが」
「……随分と殿にご執心なのだな、孫堅殿は」
彩は、不機嫌さを隠さずに言った。
「殿は、どうお考えなのですか?」
「私には、そんな望みはない。睡蓮が勝手に申しているだけであろう」
「しかし、あの押しの強さでは!」
「落ち着け、彩」
「いいえ。だいたい、孫堅殿だけではありますまい。曹操殿に袁紹殿、馬騰殿。殿に並々ならぬ興味をお持ちの方々は、枚挙に暇がありませぬ」
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