2.姉ちゃんはよく食べた
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てくれなかったよ」
「だよなぁ……俺だって“名前は?”って聞いて“比叡です”って答えられたら、嘘つくなゴルァって思うしなぁ……」
「ひええ……そんなに信用ないですかこの比叡は……しょぼーん」
「そ、そういう問題ではないんだよ比叡さん……」
一つわかった。比叡さんは事ある毎に『ひええ』と言う。これは意図的ではなく、無意識の産物だと思いたい。でないと寒すぎる。……でもよく考えたら無意識だとしても、それはそれで不憫で仕方がない。
「比叡ちゃん、どうする?」
「分かりません……でも、とりあえず交番に行ってみようかなと……」
「そっかー……まぁそれが一番自然だよなぁ……」
そこまで言うと、比叡さんは羊羹を食べ終わり、がっくりと肩を落とした。
確かに現状、それが一番確実だ。今だって、本当ならここでのんきに羊羹を食べてる場合ではなく、一刻も早く警察に保護されるべき人なのだし、家に戻るにはそれが一番手っ取り早いはずなんだ。
……あれ? なんで僕はちょっと寂しいなぁなんて思ったんだ? 気のせいだ気のせい。
「比叡ちゃん、羊羹まだあるわよ?」
「パァアアアアアア……ホントですか?! 」
母さんは、比叡さんの気持ちが沈むとタイミング良くおかわりに誘導して、比叡さんの気持ちを上向きに修正する。ここに来て、母さんは比叡さんのコントロール方法を習得しつつあるようだ。
「ねえ父さん?」
「ん?」
母さんは台所で羊羹の準備をしつつ、父さんに話しかけた。白状すると、僕はこの段階で母さんが父さんに何を言うかが読めた。こういう時、母さんは大体突拍子もないことを言い出すことが多い。今回もきっとそうだ。
「ものは相談なんだけど」
「うん」
「落ち着くまで家にいてもらわない?」
「ファッ?!!」
「ひぇええ?」
「いやだって、あなたもここで比叡ちゃん追い返すの気持ち悪いでしょ?」
「ま、まぁ確かに、警察に任せてハイ終わりってのは……なぁ……」
「お父様……じーん……」
「私だって、こんなに気持よくご飯を食べてくれる比叡ちゃんを追い出したくないし」
「お母様……ぐすっ」
「いやでもな? シュウいるんだぞ?」
「へ? シュウは反対?」
こんな時に『嫌だ』なんて言えるわけがないだろうと思いつつ比叡さんに目をやると、比叡さんはすがるような目でこっちを見ている。
「嫌ではないよ?」
「シュウくん……ぶわっ」
いや泣かなくていい。うれしいのは分かったけど、泣かなくていいから……
「いやいやそういう問題じゃなくてな? シュウだって健康な男子だし……比叡ちゃん女の子だぞ?」
そう。比叡さんは女性で僕は男子。もし比叡さんがうちに居候するなら、いつ家探しされてもいいように部屋の片付けをしない
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