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第一章
白い虎
アブドル=マドールはかつては軍人だった。
軍で狙撃兵部隊を率いていた。指揮官としても有能と言われており勘が鋭かった。だがその銃の腕はさらに凄いものだと評価されていた。
まさに百発百中であった。マレーシア軍においてその人ありとも言われていた。
しかし今は軍人ではない。定年で退役して悠々自適の生活を送っている。
だがそれでもだ。銃は手放していなかった。その趣味はだ。
「またなのね」
「そうだ、暫く家を後にする」
こうだ。長年連れ添っている妻に対して言うのだった。
「そうする」
「狩りね」
「ジャングルに入る」
こう簡潔に話す。
「獲物はわからない」
彼の趣味は昔から狩りだ。スナイパーらしいと言えばらしい。
「だがいい獲物を撃つ」
「命は大事にしてね」
夫の趣味をわかっている妻はだ。こう告げるだけだった。
「くれぐれもね」
「わかっている。死にはしない」
妻にだ。皺のある褐色の顔を向けて答える。白くなっている髪は短く刈り引き締まった顔である。やや小柄だが無駄のない均整の取れた身体つきだ。軍人を退職してもだ。身体は健在であった。
「軍人の仕事は生きて勝つことだからな」
「だからなのね」
「そうだ。ではな」
こうしてだった。彼は愛用のライフルを手にジャングルに入った。無論一人ではない。
現地に詳しいガイドを雇い彼と二人でジャングルに入った。その緑の鬱蒼としたジャングルの中でだ。
テントを張ってその中に入ったところでだ。中年の、いささか髪の毛の薄いそのガイドが彼に話すのだった。
「くれぐれもです」
「毒蛇や蠍だな」
「はい、まずはそれに注意して下さい」
このことを言うガイドだった。その顔は真剣だ。
「血清は用意していますけれどね」
「それでもだな。咬まれたり刺されたりしないに限る」
「それに越したことはありません」
「わかっている。毒はな」
「ご注意を。それとです」
凱どの話は続く。彼も仕事だから真剣だ。
「オランウータンは撃たないで下さいね」
「保護されているからだな」
「はい、撃ったらことです」
こうマドールに話すのだった。
「ちょっとやそっとの問題ではありませんから」
「オランウータンは注意か」
「他は撃ってもいいです」
「豹とかはいいな」
「はい、むしろこのジャングルは豹が多くて」
そのことにだ。困っているという口調であった。
「減らす必要がありまして」
「自然環境の保護か」
「それと人間の保護です」
ガイドの言葉は少し冗談も入れたものになった。
「ジャングルから出て来て子供を襲うなんてことも有り得ますから」
「だから余計にだな」
「はい、そ
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