3部分:第三章
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第三章
「前は皆僕を見てくれたけれど」
「僕は何かにかけられていたけれど」
それでもなのでした。今は。
「こうして。ずっと暗い箪笥の中にいて」
「誰も見てくれないしかけてもくれないから」
「こんなの嫌だね」
「そうだね」
彼等はです。そのことが嫌でした。それでなのでした。
彼等で、です。さらにお話をします。
「ねえ、僕達ってね」
「このままずっとここにいるのかな」
「そうじゃないかな」
「そうかもね」
御互いにです。こう考えるのでした。
「このままこんなところで誰にも見られないで」
「何もかけられなくて」
「ずっといるのかな」
「この狭くて暗い場所で」
灯りは入りません。本当に真っ暗な場所です。
その中にずっといるかと思うとです。彼等は暗くならざるを得ませんでした。彼等はそのまま暗い気持ちで。箪笥の中にいました。
しかしです。やがて。箪笥の外が騒がしくなりました。
「一体何だよ」
「五月蝿い、大人しくしろ」
「もうわかってるんだ、御前のことはな」
怒鳴り合い掴み合う感じでした。
「御前が泥棒だってことはな」
「さあ、盗んだものは没収だ」
「警察に来い」
こう言ってです。誰かが捕まった感じでした。
時計と鎖が置かれている箪笥がです。開かれました。
「あれ、何かな」
「開いたけれど」
それに気付くとでした。光が久し振りに彼等を照らしました。
「眩しいね」
「久し振りの灯りだけれど」
「何、これ」
「一体どうしたのかな」
彼等が考えているとです。手に取られました。そうして。
話し声が聞こえました。見れば黒い制服の人達があれこれとお話しています。
「この時計と鎖もか」
「そうみたいだな。盗品だろうな」
「じゃあ持ち主を調べて」
「返すか」
「そうするか」
こうお話するのが聞こえました。そして彼等は。
あの屋敷に戻ったのでした。紳士に手に取られてです。笑顔で言われました。
「また戻って来るなんて思わなかったよ」
「あっ、御主人だ」
「いたんだ」
こうです。時計と鎖もその紳士を見て言います。紳士は前と全く変わらない。穏やかでしかも気品のある顔を彼等に見せています。
その紳士は笑顔で、です。彼等を元の場所にかけました。あの壁にです。
「さあ、ここにいてくれよ」
「あっ、僕達完全にね」
「戻れたんだね」
彼等もここでわかりました。そのことが。
「よかった、ずっとあの暗い場所にいるのかって思ったけれど」
「戻って来られたんだ」
「また皆に見てもらえるんだ」
「こうしてかけてもらえるんだ」
彼等にはそのことがとても嬉しかったのです。こうして彼等はまた壁にかけてもらいました。
それから長い年月が経ちました。やがて。
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