暁 〜小説投稿サイト〜
時計と鎖のお話
1部分:第一章
[1/2]

[1] 最後 [2]次話

第一章

                      時計と鎖のお話 
 懐中時計はです。いつも一緒にいる鎖とこんなことを話していました。
 今二人はお店のショーウィンドウの中にいます。まだ誰にも売られていないのです。
 そこで街行く人達を見ながら。懐中時計は言いました。
「ねえ鎖君」
「何、時計君」
「僕達どんな人に買ってもらえるのかな」
 こう鎖に尋ねるのでした。
「一体どんな人にかな」
「ううん、どんな人だろうね」
 鎖は傾げる様な調子で時計に言葉を返しました。
「わからないね」
「わからないんだ」
「いい人だったらいいけれどね」
 けれどです。鎖はこう時計に言いました。
「僕達を丁寧に扱ってくれる人だったらね」
「いいけれどね」
「どうなるかなあ」
 彼等は期待しながらお話をしています。
「どんな人が買ってくれるか」
「楽しみだね」
 そんなお話をしているうちにです。ある日。
 お店に恰幅のいい立派な外見の男の人が来ました。ぴんと伸ばした口髭が目立ちます。その人がお店に来てなのでした。
 そのうえで。店長さんに言いました。
「あのショーウィンドウにある懐中時計だけれど」
「はい、あの時計ですね」
「買いたい。いいかな」
 こう店長さんにお話するのでした。
「あの鎖と一緒にね」
「わかりました。それでは」
 店長さんは快く頷いてでした。そうして。
 時計と鎖はその男の人に買われました。彼等はすぐに男の人のコートのポケットに入れられました。そしてそのポケットの中で。
 彼等はです。お話するのでした。
「やっと買ってもらったね」
「そうだね」
 まずはそのことを喜んでいます。品物は買われることが仕事ですから。
「さて、これからだけれど」
「本当にどうなるかな」
「本当に優しい人だったらいいけれど」
「僕達を大事にしてくれる人だったらね」
「粗末に扱われたら嫌だね」
「それはね」
 それは嫌なのでした。彼等も。
 期待と不安が入り混じっています。それがはじまりでした。
 鎖はコートにつけられ時計はそれでつながりました。男の人は何かあるとポケットから時計を出してです。その時間を見るのでした。
 時計はです。このことに満足して鎖に言います。
「こうして使ってもらってね」
「満足してる?」
「うん、とてもね」
 こうです。実際に満足している声で鎖にお話するのでした。
「時間を見てもらってね」
「そうだね。それはね」
「君もかい?」
「うん、こうして立派なコートにつなげてもらってね」
 それでだというのです。
「僕は。幸せだよ」
「じゃあ僕と一緒だね」
「そうだね。一緒だね」
「このままずっとね」
「一緒にいられたらいいね」
 こんなことをお
[1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ