アインクラッド 後編
年頃乙女、三人寄れば――
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も立ち上がる。
「はいはい。しっかし、エミは相変わらずド直球ねぇ」
「直球勝負はわたしの持ち味ですから。じゃねっ!」
「しっかりやってきなさいよー!」
エミは最後ににっこりと笑顔を浮かべると、ポニーテールを左右に揺らしながら颯爽と工房を飛び出して行った。二人を見送ったリズベットは、一度大きく息を吐きながら腰に両手を当てる。
「いいなぁ……」
苦笑しつつ、そんな言葉を呟く。
今まで鍛治スキルの熟練度上げにひたすら邁進してきたせいで、リズベットは大事な乙女の時期にも関わらず恋を経験していない。その選択を悔いているわけではないが、やはり年頃の少女としては、あんな風に思いっきり恋愛している姿はちょっぴり羨ましい。加えて言えば、鍛治スキルをマスターし、自分の店も持った今は次の目標というものが中々見つからず、肌寒い夜などは妙に人恋しく感じることも少なくなかった。
「あたしも《素敵な出会い》のフラグ立たないかなぁー」
軽く伸びをしながら余計な思考を追い出し、二人が出て行ったドアに背を向けるリズベット。
「さってと……」
念のためにもう一度メモを取り出して要求仕様を確認しつつ、再び炉の前に向かう。
途切れることなく続く水車のリズムが窓から差し込む朝の光と微かに残ったハーブティーの香りを緩やかに攪拌し、それを爽やかな朝の風が外に押し流していく。なのに胸の中に居座った妙なもやもやだけは、吹き流されることなく同じ場所に停滞し、愛用のハンマーを振るい始めてなお、晴れることはなかった。
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