第一部
第二章 〜幽州戦記〜
四 〜誘(いざな)い〜
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よい手立てはないものか……。
「そんな事より、ちゃんと朱儁との話について、聞かせて欲しいのだ」
「おお、そうでしたな。それでは主、改めて」
「稟。もう、良いのか?」
「は、はい……。お見苦しいところをご覧に入れてしまい、申し訳ありません」
本人がそう言うのなら、大丈夫なのであろう。
「では、話そう。まず、朱儁だが、我らの働きを認めた上で、彼女の軍への加入を打診された」
「おおー、それは重畳なのです」
「当然なのだ!」
「そうだな。自身の軍であれだけ苦戦した敵を、一夜にして討ち破ったのは事実」
留守居の三人は、素直に喜んだ。
「……ですが、その割にはご主人様の雰囲気が、少し重かった気がします」
「愛紗もそう思いましたか。歳三様、一体何があったのですか?」
「うむ。……少し考えた末に、断った」
私の言葉に、全員が一瞬、固まった。
「な、何故ですかご主人様! 朱儁軍は、歴とした官軍ではありませんか!」
「うむ。我らは兵も弱く、糧秣にも限りがある。その点、何かご不満でもありましたか?」
「いや。功は上奏を約束されたし、補給どころか俸給も考慮する、との事であった」
「破格の条件ですねー。稟ちゃんはどう思いますか?」
「確かに、悪くない話かと。素性の知れない義勇軍を、たった一戦でそこまで認めたのですから」
「お兄ちゃん、何故断ったのだ? 鈴々にはわからないのだ」
「そうだな。まず、朱儁自身の器量は大したものだが、周囲にいる将が悪すぎる。まず、あのまま我らが加われば、朱儁軍そのものの空気を悪くする懸念がある」
「……それは、ご主人様の仰せの通りでしょう」
「……ですね」
同行した二人が、頷く。
「それに、朱儁軍の質に問題がある」
「質、ですか」
「うむ。正規軍とは言え、率いる朱儁の意に反して、士気は高いとは言えず、練度も今ひとつのようだ」
「…………」
「そこに、我らが加入すればどうなるか。恐らく、今までにない戦果を挙げる事だろう。皆がいる故にな」
「つまり、彼らの手柄を横取りする格好になる、そう仰るのですか? 歳三様」
「そう受け取られかねないのではないか?」
「鈴々達は、そんなつもりはないのだ。ただ、黄巾党をやっつけて、困ってる人達を救いたいだけなのだ……」
鈴々の率直な言葉。
それは、皆の気持ちを代弁したものであろう。
「だが、それをわかって貰えるような状況にはない。そう仰るのですな、主?」
「そうだ。これは、朱儁軍だけではない、恐らくは他の官軍も、似たり寄ったりだろう」
「むー。官軍の腐敗は、根深いものですからねー」
「そうなると、歳三様の判断は、正しいと言わざるを得ませんね」
「官匪か……。そのようなもの、早く打破せねばならんな」
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