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至誠一貫
第一部
第二章 〜幽州戦記〜
四 〜誘(いざな)い〜
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すら手を焼く多勢だぞ!」
「恩賞欲しさにでっち上げとは見下げた奴等だ! 引っ捕らえい!」

 周囲の将達が口々に騒ぎ立てる。
 そして数名の兵士が、槍や剣を手に向かってきた。

「ご主人様!」
「愛紗。構わんが、殺すなよ!」
「御意!」
「無駄な抵抗は止せ!」
「黙れ!」

 我慢していたせいか、ちと愛紗は手荒い。
 繰り出された槍を掴むと、そのまま兵士を放り投げた。

「うわわわっ!」
「おのれ、抵抗するかっ!」

 他の兵がかかってきたが……勝負になどなる筈もなく。
 得物がなくとも、一兵卒ごときに遅れを取る訳がない。

「き、貴様っ! 狼藉者だ、出会え、出会えっ!」

 一人の将が叫び、数十名の兵が雪崩れ込んできた。

「皆の者、静まれっ!」

 その一喝に、騒然としていた天幕の中が静かになった。

「私は、この男と二人で話がしたい。皆、下がっておれ」
「将軍、何を仰せられますか! 危険です!」
「このような得体の知れない男となど。せめて、我らだけでも」

 側近が、食い下がる。

「私は皆下がれ、と言ったのだぞ? これは、命令だ」
「……わかりました」

 不承不承と言った風情で、朱儁配下の者が天幕を出ていく。

「愛紗、稟。お前達も下がっておれ」
「ご主人様。しかし」
「下がりましょう、愛紗。ご主人様がどのような御方か、わかっているでしょう?」
「……わかった、稟。では。何かありましたら、すぐにお呼び下さい」

 全員が出ていったところで、朱儁が頭を下げてきた。

「済まぬ。あの程度でも将と呼ばれるのが、今の官軍でな」

 どうやら、私の知識にある朱儁とは、人物が違っているらしいな。

「いえ、お気になさらず」
「そうか、ありがたい。ところで黄巾党の件だが、まことか?」
「斥候を出されたのであれば、遠からず事実とおわかりになるかと」
「なんと。しかし、貴殿は義勇軍と聞いたが。我が軍よりも人数が揃っているとも思えぬが、どう戦ったのだ?」
「さしたる事はしておりませぬ。未明を以て夜襲をかけ、敵を混乱させたまで。そして、敵将を討ち取り、残りは降伏させました」
「ふむ……。貴殿が言われた通りかどうかは、斥候から確かめるとして」

 朱儁は、私を見て、

「貴殿、何処の出だ? いかに義勇軍とは言え、これ程の将が、今まで私の耳に聞こえて来ないというのは、どうにも解せない。それに、あの二人の配下も、ただ者ではないようだが」

 なるほど、伊達に高官にまで上り詰めた訳ではないようだ。

「私は、ここより遥か東、海の向こうにある島国の出です」
「では、蓬莱の国か? かつて、始皇帝が不老不死の妙薬を探す為に、徐福なる者を派遣したと聞き及んで
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