巻ノ二十一 浜松での出会いその三
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「大きいからのう、御主は」
「その分食わねばならぬ」
「そうじゃな。それでも大食と大酒じゃが」
「それでも貪っておるつもりはないぞ」
清海自身としてはだ。
「決してな」
「ならよいがな」
「では殿」
根津は生真面目な声で幸村に声をかけた。
「これより」
「うむ、店に行きな」
「鰻を食しましょうぞ」
「皆でな」
「それがしなら鰻を捕まえられますので」
水練に巧みな海野は幸村に自信のある笑みで申し出た。
「若し店の鰻が売り切れていたら」
「その時はじゃな」
「それがしが捕まえますので」
「そして焼いて食うのじゃな」
「お任せ下さい」
「ではその時は頼む」
「水のことならお任せ下され」
海野は幸村に笑って言っていた、そして最後に霧隠が一行に言った。
「鰻は捌いてから焼くまで時がかかる」
「ではその間別のものを飲み食いしようぞ」
清海は霧隠のその話に笑って返した、その口を大きく開けて。
「そちらも楽しみじゃ」
「いや、食する前におなごと遊ぶものじゃが」
「?そうなのか」
「うむ、それでわしは何度かおなごに鰻を食いに誘われたのだが」
「御主、それでそのおなご達と」
「馬鹿を言え、わしはその様なことはせぬ」
霧隠は整った顔をむっとさせて清海に返した。
「決してな」
「せぬか」
「そうじゃ」
「誘われてもか」
「よく知らぬおなごと付き合うつもりはない」
「それはどうしてじゃ」
「花柳病にでもなればことじゃ」
そうした病気に罹る恐れがあるからだというのだ。
「それでじゃ」
「そうした遊びはせぬか」
「うむ、そうしておる」
「花柳の病か」
「何人か見たのじゃ、瘡毒が身体に入りな」
その花柳病に罹り、というのだ。
「身体が腐りぼろぼろになり死んでいった者をな」
「ううむ、確かにそうした者がおるな」
「御主も見てきたな」
「あんな恐ろしい病はない」
清海も強張った顔で霧隠に言葉を返す。
「鼻も落ち生きながら身体が腐り頬まで腐りな」
「そこから歯が見える有様も見たな」
「髪も抜け落ちてな」
「ああした病を見てきたからじゃ」
だからだというのだ。
「わしはよく知らぬおなごにそうしたことに誘われてもな」
「乗らぬか」
「嫌いではないが」
女をだ、それでもというのだ。
「しかしじゃ」
「よく知らぬおなごとはか」
「そうしたことはせぬ」
「そうしたおなごに誘われてきたからか」
「鰻屋でもな」
その場所でもというのだ。
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