巻ノ二十一 浜松での出会いその二
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「鰻は実に美味い」
「魚の中でもとりわけ美味いものの一つです」
「その鰻をですな」
「これより」
「食しようぞ」
皆で、というのだ。
「これよりな」
「いや、鰻はいいですな」
「うむ、あれはよいものじゃ」
清海と猿飛は舌なめずりせんまでにだ、鰻と聞いて笑顔になっている。
「わしは魚も好きじゃが」
「鰻は特にじゃな」
「好きじゃ」
実際にとだ、清海は言うのだった。
「それと酒もあれば尚よい」
「気が合うのう、わしもじゃ」
「よし、では共に食しようぞ」
「望むところじゃ」
「いや、今更じゃが」
笑って猿飛と鰻のことを話す清海にだ、由利が突っ込みを入れた。
「御主は坊主であろう」
「だから生臭ものはか」
「駄目ではないのか」
「そうじゃ」
まさにその通りだとだ、清海は由利にはっきりと答えた。
「坊主ならば生臭ものは駄目じゃ」
「御主はずっと肉も魚も酒も口にしておるがな」
「何しろ破戒僧じゃからな」
「よいのか」
「うむ、わしは気にしてはおらぬ」
清海は笑って由利に述べた。
「全くな」
「御主が気にせずとも問題はあろう」
「だから破戒僧じゃ、それに信仰はじゃ」
「そうしたことではなくか」
「心じゃからな」
「全く、そうしたところも花和尚じゃな」
つまり魯智深であるとだ、由利は清海の返事にやれやれといった顔で返した。
「御主らしいがな」
「持っておるのは鬼の鉄棒じゃがな」
「あの錫杖を持っておるのは御主じゃな」
望月は伊佐に言った。
「花和尚のそれは」
「はい、これですね」
伊佐は左手に持っているそれを見つつ望月の言葉に応えた。
「この錫杖は花和尚のものよりも重いですが」
「しかしその錫杖をじゃな」
「拙僧は使っています」
「花和尚の得物は御主にあるな」
「そうなりますね」
「御主は清海と違い真面目じゃしな」
「それでも生臭ものは口にします」
伊佐もだった、そのことは。自分自身でそれを隠すことはしないし実際にこれまでも幸村達と共に口にしてきている。
「口にするものは残さない」
「それが仏門の本来の教えだからか」
「そうしています」
「確かに釈尊も」
筧は己が持っている学識から述べた。
「肉等を口にされていた」
「そうでしたね」
「うむ、生臭ものでもじゃな」
「出されたものは必ず食べることがです」
「仏門の本来の教えであるな」
「そうです、貪ってはなりませんが」
「御主は貪るというかその巨体に合わせて食っておるのか」
穴山は清海を見つつ言った。
「それになるか」
「この通り大きいからのう」
「わし等の中で一番な」
その山の様な巨体を見てだ、穴山も言う。
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