真似事と憧憬と重なりと
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…また変なこと考えてんのか」
「クク、ちょっとした悪戯さ」
楽しそうに、可笑しそうに彼は笑う。何処か渇いた笑い声は、矛盾に彩られた心から零れる戦場での音色。それは記憶を失う前の彼しか持てなかったモノ。
天幕の中からの声だけに、伝令の兵士は何故か心が躍るのと同時に泣きそうになった。
夜に聞いたことだ。益州を地獄に落とすと。作られた平和を壊し地獄を作り上げることは彼らとて初めてのこと。
――もし、“御大将”が此処にいたなら……お前と同じように笑っただろうよ、徐公明。
官渡を越えて、絆を繋いで、彼を見てきた徐晃隊の兵士達はもう認めていた。
まだ戻らない男がいつだって、“お前らは俺と同じだ”と言っていたからか、今度は自分達が認める番。
「なぁ、あんたはやっぱり俺らと同じだよ。矛盾に潰されそうで辛いときはさ、一緒に酒でも飲もうぜ……黒麒麟のマガイモノよぉ」
返答も聞くことなく男は走り出す。かっこ付けた自分が少し照れくさくて、さすがにこれ以上はその場に居られなかった。
遠くに走り去る荒い足音を耳に入れて、ふと気付けば胸の痛みが消えている。いつもはただじっと耐えるしかなかったというのに。
天幕の入り口をじっと見つめながら、彼はふっと吐息を漏らした。
「……バカが」
優しい微笑みを浮かべ、じわりと胸に湧く確かな暖かさを大切に仕舞い込んで。
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