真似事と憧憬と重なりと
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湧いて当たり前、秋斗の行ったことに対して何かしらのアクションを起こすのは間違いない。
――なんとまぁ、お早い事で。おちおち軍議も出来やしねぇ。どっちが提案したのか分からんが、どちらにせよ厳顔が来てる時点で少し趣向を凝らすべきかね。
ただ、こんな速くとは思わなかった為か、驚きが少し。それでも秋斗の顔はどこか楽しげ。
自分の予測程度を覆してくれるのは嬉しいことだ。常に最悪の結果を想定して動く彼にとって、敵の予想外の行動が一番安心感に繋がる。
自分には読み取れない深い部分で動かれると厄介だが、こうして表だって予想外をしてくれるなら万々歳、といったところなのだ。
軍師との頭脳合戦は彼の苦手な戦場だ。緻密な計算で創り上げられると遊ばれるのがオチである。曹操軍の軍師連中に普段から手玉に獲られているのがいい証拠だった。
彼に出来ることは、自身が不可測を連続させる渦となり、巻き込み引き摺り込んで自由を奪うこと。僅かな綻びを“作り出し”そこから即時対応を積み上げて戦を切り拓くという……軍師であればまず選ばない危うい橋しか渡れない。
華琳はその完成系であるが、秋斗は華琳ほどの頭脳は持っていない。故に、彼の不可測は軍師が隣にいる状況でこそ輝くと言える。
では今回はどうか。
敵がしてきた即時対応に対して、どういった対応を取るか……秋斗が瞬時に判断したことは、一つだけ。
――“俺が動けないようになる”のが最善、か。
彼が行うのはいつっだって逆算思考。必要なのは結果と証明式で、数学で問一の答えを見つけるかの如く式を頭の中に書き連ねる。此処から始めようと、敵の不可測の動きさえ彼は呑み込んだ。
僅かに、彼の顔が苦悶に歪む。無意識で胸をぎゅうと握りしめた。
ビシリと胸が痛むのはこれから行う道筋で犠牲になる命の数を把握しているから。
悲哀が湧いてきそうになるのは、弾劾されるに値する矛盾の大きさを知っているから。
歓喜が湧いてきそうになるのは、確かに世界を変えられると確信しているから。
薄く笑った。不敵な笑みは、官渡の戦の前に見せたモノと相似でありながら、渦巻き始める黒の闇色は渇きの深さからか、昏い怨嗟を知った黒麒麟のモノとも似ていた。
「客人の招待場所は……そうさな、食事場に案内してくれ。えーりんと猪々子、それに第四部隊長と連隊長も。俺はちょいと遅れて行く」
「了解だ」
つらつらと語られる指示に軽く了承の意を伝え、伝令の兵士は天幕に背を向ける。
「あ、それとな。全員叩き起こして見物していけ。どうせ七日程度で移動するから陣を警護する必要もないし、俺らに草が混じってもすぐ分かる。見世物の観客は大いに越したもんはねぇから第九にも伝えとけばいい、一口いくらにするかは任せるよってな」
「…
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