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乱世の確率事象改変
真似事と憧憬と重なりと
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など誰もしない。

 例外は一つ。誰かが死んでも繰り返すと決められている冷酷な命令だけ。
 黒麒麟が戦場に起こした『動く槍の壁』である参列突撃戦術こそが異常であり、兵士達は戦場で細かい動きを繰り返し続けているのが通常。
 であるからして、彼らにとっては、相手が武将であろうと戦場での行動である限り、試行錯誤の果てに目的達成を試みるのは当然であり……武将である猪々子は隔絶された力を持つが故にその当たり前を受け入れにくい。

――そういや副長達もそんな奴等だったっけ。

 この世界では、真正面から打ち倒せるモノなど武将同士でしか有り得ず、されども武将を倒す為ならば、“兵士”という枠組みに入れられている彼らは何でもする。
 徐州逃亡戦のあの時は、副長以下徐晃隊の最精鋭が限定的状況で戦い、後一歩という所まで猪々子を追い詰めた。
 それならば納得だ、と彼女は一つ頷く。

「でもさ、あたいみたいな奴の動きを止めようとして近付いた兵士は確実に死ぬだろ。そこまでして倒したいのか?」

 一応聞いてみた。彼らの願いを分かっていながら。
 諦めろ、などとは死んでも言わず、挑戦的に、立ちはだかる壁として、彼女は彼らに問い掛けた。
 キョトンと目を丸めた彼らは、呆れたようにため息を漏らしてから、やはり不敵に笑う。

「くっくっ、そのうち一人で倒してやるって思ってるけどよ……」
「仲の良い奴等を一人でも多く救う方法があるならそっちを優先すらぁな」
「まあそれに……俺らが文ちゃんみたいな武将を止めりゃ、“御大将”が楽になる」
「“黒麒麟”が自由に戦場を駆けられる」
「俺達と御大将を比べてみれば、戦場でどれだけの仲間と敵の命が救えるか、なんざぁ選ぶまでもねぇわ」
「ははっ、違いねぇ。だがよ、他のどんな軍の奴等でも俺らみてぇには武将を止められねぇんだぜ? きっちり仕事やりきれば男が上がるってもんよ」
「おうおう、女なんかにゃ負けてらんねぇもん」
「あー、寄ってたかって袋叩きにしてるってのは情けねぇかもしんねぇが」
「言うなって、いつか副長みたいになりゃ問題ない」
「確かに強くはなりたいけど……“めがねふぇち”の“どえむ”にはなりたくないなぁ」

 次第にくだらない話題へと変わって行くのはいつも通り。口ぐちに同意を示しからからと笑う彼らは四番隊。
 黄巾の頃からのモノも混ざっている三番隊には劣るが、それでも反董卓連合を黒麒麟と共に駆け抜けた猛者たちなのだ。
 自分達の仕事を間違えることなどあろうか。彼に身体とまで言わしめた彼らが。
 己らの本懐を忘れず、されども緩さも忘れず、日々の平穏と非日常の戦場を行き来する彼らは、ずっとこうやって絆を繋いで強くなってきたのだと猪々子は感じる。

「へへ……ほんとお前らってバカだよな」


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