第一部
第六章 〜交州牧篇〜
八十一 〜神医、再び〜
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意外ですね。土方様はもっと厳格な御方かと思っていましたが」
「私とて、余人には話せぬ事もしてきたのだ。そこまで私は身綺麗な人物ではない」
「……そうですか。ただ、妹達がそれを弁えているかどうか」
士燮は、大きく溜息をつく。
「有り体に申し上げて、あの娘達は土方様を恐れています。ご自身も勿論ですが、軍としての練度も驚くばかり。そして、将は綺羅星の如くですし」
「ならば、何故私が交州入りした時点で行動を起こさなかったのだ? あの時ならば長距離移動があり、兵も疲弊していた」
「そこです。土方様を甘く見ていたか、若しくは他の理由があったのか。そこはまだ、何とも申し上げられません」
「では、風を襲った理由もそこにある、そう見ているのだな?」
「はい。必ずや、突き止めて見せます」
士燮は一礼する。
「それから、関羽様の事ですが。凄腕の医師をお捜しとか」
「耳が早いな。華佗と申す、五斗米道の医師だ。病人が居ると聞けば駆けつけている故、所在がはっきりせぬのだ」
「わかりました。そちらの方も、私がお手伝いします」
「頼む。下手人も突き止めねばならぬが、今は愛紗の事が最優先だ」
「ええ」
どうやら、胸襟を開いて、というのは嘘ではなかったようだな。
だが、士一族が本当の黒幕かどうか。
……まだまだ、隠された事実があるのだろう。
その後数日間、愛紗の意識は戻らぬままだ。
「う、うう……」
その額に、汗が滲んでいる。
「解毒薬は効いている筈なんですけど……」
「朱里、お前のせいではない。気に病むな」
「はい……」
責任を感じているのか、朱里の表情は曇ったままだ。
それに、隠しきれぬ疲労が浮かんでいる。
「それよりも少し休め。お前まで倒れては本末転倒だ」
「いえ、大丈夫です」
「無理をするな。お前にも役目があるのだ、ここは私に任せて休め」
「……わかりました」
そう言って席を立った朱里だが、足下がふらついている。
「全く大丈夫には見えぬぞ」
「い、いえ。ちょっと立ち眩みを起こしただけで……はわわわ」
倒れかかったその身体を、咄嗟に支えた。
「あ……す、すみません……」
「一人で歩けぬ程疲労困憊しているのなら、そう申せ。部屋まで連れて行こう」
朱里は何か言いたそうであったが、私は構わず背負った。
「はわわわわっ! ご、ご主人様?」
「不服か?」
「い、いえ……」
「ならば良い。行くぞ」
部屋を出たところで、鈴々に出くわした。
「あれ? お兄ちゃんに朱里なのだ」
「鈴々か。暫し、愛紗の傍についていてやってくれぬか?」
「合点なのだ。鈴々も、愛紗の事が心配で見に来たのだ」
「そうか。お前ならば安心だ、頼むぞ」
「応なのだ」
普段は口煩い姉と、天真爛漫な妹……そんな風情
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