第一部
第六章 〜交州牧篇〜
八十一 〜神医、再び〜
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言い淀む士燮。
「ならば、私から訊ねるが。この一件、交州の者が絡んでいるのではないか?」
「……土方様。何故、そのようにお考えに?」
「まず、諸事の手際があまりにも鮮やか過ぎていた。これは、番禺の城内外に通じていなければ至難の業であろう」
「……はい」
「それに、殆どの者があれだけの騒ぎにも関わらず目覚めなかった。夕食に何か盛ったとして、それとて手引きする者が不可欠だ」
「それだけですか?」
「いや。それに私ではなく風を狙った襲撃というのも、どうにも解せぬ。それも、何か関わりがある筈だ」
「…………」
士燮は暫し、視線を宙に巡らせた。
そして、意を決したように切り出した。
「土方様。……では、胸襟を開いて話します」
言葉を一旦切って、士燮は続ける。
「ただ、これからお話する事はまだ確証を掴めずにいる事です。はっきりするまで、土方様の胸の内に収めておいていただけますか?」
「そのような事、私に話して良いのか?」
「……土方様は、不用意にべらべらと他人に漏らしてしまうような御方ではないでしょうから。それは、私が確信しています」
「良かろう。私とて、約束を違えるのは好まぬ」
「ありがとうございます」
士燮は一礼してから、声を潜める。
「実は、今回の事……我が一族が絡んでいると私は見ております」
「……そうか」
「はい。あまり、驚かれないのですね?」
意外そうな士燮。
「あくまでも可能性だが、そう仮定すれば辻褄が合う。そう考えたまでだ」
「なるほど。ふふ、やはり土方様は恐ろしい御方です」
「怒らぬのか? 取りようによっては、士燮自身も疑っているとも見られかねぬが」
「仕方がありません。その前提ならば、私が黒幕であれば全て説明がつきますから」
「だが、お前は無関係であろう?」
「さて、どうでしょうか」
「ふっ。そこまで平然としている者を疑え、と申す方が難しいのではないか?」
得心がいったようで、士燮は大きく頷く。
「しかし、私を敵に回して何の利がある? そこがわからぬのだ」
「それは、南方貿易が関係していると見ています」
「ふむ、貿易か」
「そうです。土方様もご存じの通り、南方貿易は多大な利をもたらします。諸侯がこの地を狙う最大の理由でもありますが」
「それはわかる。だが、私はそれを取り上げるつもりなどない。無論、その為に庶人を犠牲にする事がなければ、だが」
「流石にそれはないと思います。……ただ、貿易額を過少申告して、差額を懐に入れる。それならばどうでしょうか?」
私腹を肥やすという訳か。
勧善懲悪の芝居ならば、さしずめ斬られる悪役という立場とも言える。
「だが、上に立つ者全てが清廉潔白で居られるとは限るまい。目に余る程でなければ、目くじらを立てるつもりはない」
「
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