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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第二百七十八話 可愛げの無い敵
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後から三個艦隊が来るが五月雨式だ。各個に叩いて膠着状態に持ち込めば後はメルカッツが来るのを待つだけだ。勝算は有る、と思おう。チラッとユスティーナの事を想った、優しそうなエメラルド色の目……。慌てて頭から追い払った。戦場で女子供の事を考えてどうする。考えるのは勝つ手段だろう、この間抜け! 先ずはウランフだ、こいつを叩く!



宇宙暦 799年 4月 16日    第十三艦隊旗艦ヒューベリオン フレデリカ・グリーンヒル



徐々に徐々に帝国軍が射程距離内に近づいて来る。指揮卓の上に座っていたヤン提督が右手をそろそろと上げた。決戦の時が近付きつつある。帝国軍が前進してきた事にヤン提督は驚いていた。提督は帝国軍が後退するかもしれないと思っていたのだ。その場合は後方を遮断しようとした敵艦隊を挟撃する筈だった。そして救出に動く帝国軍の本隊を誘引するつもりだった。

でも帝国軍は前進してきた。味方を見殺しにはしないという事だろうけど瞬時に方針を決戦に切り替えたのは元々ヴァレンシュタイン元帥にも決戦を望む気持ちが有ったからかもしれないとヤン提督は言っていた。こちらは上手くその心理を利用出来たのかもしれないと……。

「完全に射程距離に入りました!」
「撃て!」
命令と共にヤン提督の右手が振り下ろされた。ヤン艦隊から何十万もの光線が発射される、ウランフ艦隊からも同じ様に発射された。そして帝国軍からも光の束が同盟軍に襲い掛かった……。

彼方此方から悲鳴が上がった。ヤン提督も“これは”と言ったまま唖然としている。左に位置していたウランフ提督の第十艦隊が酷い損害を受け混乱している、一体何が? 攻撃を第十艦隊に集中しているのは分かるがそれにしては混乱が酷過ぎる。
「ウランフ提督に後退するように伝えてくれ。こちらもタイミングを合わせて後退する」

「宜しいのですか? こちらが退けば帝国軍も退く可能性が有ります。それでは逃げられてしまいますが」
ムライ参謀長が問い掛けたがヤン提督は首を横に振った。
「いやそれは無い。帝国軍はこちらの後背を狙った艦隊、黒色槍騎兵を置き去りにはしない。それくらいなら最初から逃げている。それよりこれ以上損害を受ければ帝国軍が急進して第十艦隊を撃破しようとするだろう。その方が危険だ。後退して第三、第九、第十一艦隊との合流を優先する。総司令部にも伝えてくれ」

オペレータが第十艦隊、総司令部に連絡を取る間にも帝国軍の攻撃を受け第十艦隊の混乱はさらに酷くなった。
「帝国軍、後方の一個艦隊が前面に出ます!」
オペレータが声を張り上げた。提督が顔を顰めた。これで帝国軍の正面戦力は四個艦隊、こちらの二倍になった、もう直ぐアップルトン、ホーウッド、クブルスリー提督が応援に来るがそれでようやく互角だろう。


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