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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第二百七十八話 可愛げの無い敵
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「全艦隊に命令! 砲撃戦用意! 主砲斉射準備!」
ヴァレリーが俺の命令を復唱した。艦橋の空気が一気に引締まった。戦術コンピュータのモニターには俺に近付くヤン、ウランフ艦隊、それに五月雨式に追いつこうとする同盟軍三個艦隊が、そしてビッテンフェルトに近付く二個艦隊が見えている。そしてこっちはミュラー、ケンプ艦隊が動き出した。まるで獲物に集まる肉食獣の様だ。

「してやられましたな」
リューネブルクが声に笑みを含ませながら話しかけてきた。周囲が眼を剥いた。不届き者、そんな感じだ。
「ええ、してやられました」
ああ、してやられたよ。同盟軍が何をやったのか、ようやく俺にも分かった。可愛げなんて欠片も無い連中だ。

ビッテンフェルトを攻撃しようとしている二個艦隊は撤退する同盟軍の先頭にいた二個艦隊だろう。途中で時計回りに移動したのだ。遠回りしてビッテンフェルト艦隊に近付いたので至近に迫るまで分からなかった。三番手から五番手が今ヤン、ウランフに追い付こうとしている艦隊だろう。まったく、やってくれるわ。ヤンが考えたのだろう、この戦争大好きの偽善者め、小説の中では大好きだが敵になると鬱陶しいだけだ。

「リューネブルク大将。私は反乱軍に降伏勧告を出そうかと思っていたのです。笑えるでしょう?」
リューネブルクが、皆が目を瞠った。
「本当ですか、それは」
「ええ、本当です。何を考えていたのか……」
リューネブルクが“それは”と絶句して笑い出した。こいつ、腹を抱えて笑っている。それを見てヴァレリーが軽く睨んだ。

俺も笑った。皆が呆れていたが笑うしかない。俺は何時の間にか脳味噌に御花畑を作っていた。おまけに綺麗な花が沢山咲いている。門閥貴族を笑えんな。戦争なんだ、殺すか、殺されるかの世界で戦いたくないとか何を考えていたんだか。まして現状では兵力はほぼ互角、相手がそう簡単にあきらめる筈がない。結婚して少し呆けたな。戦場では異常な心理になるという事が良く分かった。自分自身の体験でな。一生忘れないだろう。

「勝てますかな? 反乱軍の方が兵力は多いですが」
訊くな、リューネブルク。俺も自信が無いんだ。
「まあ無理せずに戦いますよ」
リューネブルクがニヤッと笑った。俺の気持ちなんか御見通し、そんな感じだな。だからお前は周囲から白い眼で見られるんだ。俺だけだぞ、お前を面白がって、いや腐れ縁で仕方なく傍に置いているのは。

「反乱軍、イエローゾーンを突破しつつあります」
オペレータの声が上がった。少し掠れている。今頃唾を飲み込んでいるだろう。最初の三十分が勝負だ。こっちは俺、レンネンカンプ、アイゼナッハの三個艦隊、向こうはヤンとウランフの二個艦隊だ。叩きのめして混乱させる。そして混乱したところにケンプが攻撃に参加する。混乱は大きくなるだろう。
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