第一部
第六章 〜交州牧篇〜
八十 〜番禺の死闘〜
[2/5]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
うむ」
城内は未だ、静まり返っている。
……いや、不寝番の兵がいる筈だ。
「妙だな」
「彩、お主もそう思うか。静か過ぎる」
「……ご主人様、お下がり下さい」
「愛紗。それで引き下がる私だと思っているのか?」
「いいえ。ですが今は我ら三人がいます。ご主人様が無理をする場面ではありませぬ」
「何だあれは!」
と、不意に空が明るくなった。
……いや、これは夜明けではない。
「火事だーっ!」
「城下で火事だぞ!」
城のあちこちから、叫び声が上がり始めた。
「星! 警備兵を率いて速やかに消火に当たれ!」
「し、しかし主!」
「私の事は良い。早く行け!」
「ぎ、御意!」
機転の利く星ならば、指示はこれだけで良かろう。
「彩は城内を確かめよ。様子がどうにもただ事ではない」
「はっ!……愛紗、殿の事、任せるぞ?」
「ああ!」
再び、愛紗と二人きりになった。
無論、愛紗も浮かれた様子はない。
「しかしご主人様。火事とは一体」
「……恐らくは、付け火。間違いあるまい」
「放火ですと? ですが放火は大罪、少なくともこの交州に住む者ならば承知の筈です」
「そうだ。だが、下手人が交州以外からやって来た、と考えれば……どうだ?」
「やはり、洛陽からの手の者ですか」
「可能性は高いな。無論、断定は早計だが」
「奴らめ……何処まで卑劣な真似をすれば気が済むのだ」
ギリ、と愛紗が奥歯を噛む。
「だが、これは好機とも言えるぞ」
「好機ですか?」
「そうだ。月の力を削ぎ、私を遠ざける事で満足しておけば、我らが反撃する口実がない。だが、これがもし、連中の仕業であるという証拠があれば」
「十常侍らに反撃する格好の材料……になりますね」
「その通りだ。故に、下手人の素性も確かめねばならぬ」
「御意。しかし、城内が妙に静か過ぎますな。この騒ぎで未だに兵や文官らが目を覚まさぬとは」
愛紗の申す通りだ。
如何に払暁とは申せ、鍛練を重ねた兵らが一人も姿を見せぬとは解せぬ。
「お兄さん、どうかしましたかー?」
眠そうな風の声。
……不意に、殺気を感じた。
「風、伏せろ!」
「え? あ、あひゃっ!」
慌てて倒れこんだ風の頭上を、矢が通り過ぎていく。
「おのれ、何奴!」
愛紗の叫びに反応したのか、物陰や植え込みから人影が現れた。
全員が面体を隠し、短弓や剣を手にしている。
「誰に頼まれた?」
「…………」
黙りか。
だが、私と愛紗は先般から姿を晒していた。
襲撃をかけるなら、機会はあった筈だ。
……すると、奴等の狙いは。
その刹那、数名が私に襲いかかってきた。
「ご主人様!」
「私は良い! 風を!」
「は、しかし」
「説明は後だ!」
「ぎ、御意!」
正
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ