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真田十勇士
巻ノ二十 三河入りその七

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「人によって成るものじゃ」
「信玄公が言われた様に」
「人ですか」
「人は城、人は石垣」
「では」
「その城も人が守る、人がおらずして天下は成らぬ」
 これが幸村の考えだった。
「だからな」
「人がどうなるかわからない」
「それ故にですか」
「羽柴家の天下は秀吉殿から先はですか」
「わかりませんか」」
「そういうことじゃ、そして絶対に陥ちぬ城はない」
 幸村はこの言葉も出した。
「人が作ったものはな」
「あの城でもですか」
「とてつもなく巨大な城になりそうですが」
「その上に多くの櫓が出来」
「壁も石垣も高く濠も深い」
「天守閣も相当なものになるのでは」
「そうじゃな。しかしじゃ」
 天下に君臨する巨大で堅固な城になるのは確か、しかしだというのだ。
「そうした城でもな」
「陥ちますか」
「そうなりますか」
「あの城でも」
「そうなるのですか」
「攻め方もない訳ではないだろうしな」
 幸村はまた言った。
「幾らでもある」
「と、いいますと」
「その攻め方は」
「城を攻めるのは下計じゃが」
 幸村はその城の話もした。
「人を攻めるのは上計というな」
「?人をですか」
「人を攻めるのがですか」
「上計ですか」
「確か孫子の言葉ですな」
「この場合人とは人の心じゃ」
 それだというのだ。
「人の心を攻める、そうすればな」
「城を守っている人のその心をですか」
「攻めるのが上計」
「ではあの城もですか」
「守っている者達の心を攻めれば」
「陥ちる」
 そうなるというのだ。
「そういうことじゃ」
「ううむ、そうですか」
「如何な城でも守っている者達の心を攻めれば」
「それで陥ちる」
「そういうことですか」
「実際に羽柴殿はそうされていた」
 秀吉、大坂城を築かせているその彼はというのだ。
「城を攻めつつもな」
「城を守る者達を攻めていた」
「その心を」
「そうされていましたか」
「兵糧攻めも水攻めもじゃ」
 そのどちらの攻め方もというのだ。
「ただ攻めているだけではなくな」
「その心を攻めて」
「そして攻め落としていたのですか」
「あの方は」
「そうされていましたか」
「兵糧をなくし水の高さを徐々に上げてな」
 その兵糧攻めや水攻めだ、秀吉は鳥取城や備中高松城で実際にそうした様々な攻め方をしてきたのである。
「城の中にいる者達の心を追い詰めてじゃ」
「陥としていた」
「そうされていましたか」
「あの方は天下の人たらしとも言われておる」
 確かに猿面で小柄でだ、お世辞にも整っているとは言えない外見だ。しかしそれでいて男だけでなく女からも好かれているのだ。
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