第十六章 ド・オルニエールの安穏
第三話 何時か宿るあなたとの―――
[6/8]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
を指先で拭いながら問いかけると、凛は口元に手を当て天井を見上げた。
「―――具体的な答えじゃないけど、いいかしら?」
「はい。構いません」
貴重な教えを請う真面目な生徒のように姿勢を正すアンリエッタの姿に、凛は微笑ましげな笑みを浮かべると大げさな仕草で腕を組み、勿体ぶるように咳払いをした。
「ごほん―――それでは教えましょう。どこぞの“誰かさん”に嫌われないで、手段を選んでいられないような目的を達成する手段とは―――」
「「その手段とは―――」」
何時の間にかアンリエッタだけでなくルイズも姿勢を正して見つめてくる中、凛は重々しい表情と口調でその方法を口にして―――。
「―――その手段で、自分も幸せになることよ」
―――悪戯っぽく笑った。
明かりが落とされた執務室を、月光が照らし出す。
晩餐の残り香が未だ残る部屋の中、月の光が差し込む窓際に立つアンリエッタが、窓を大きく開いた。夜の冷えた風が入り込み、執務室に残っていた晩餐会の残り香を流していく。風に揺れる髪を押さえながら、アンリエッタは目を細める。
アルコールで火照った身体が、夜風に冷やされ内に篭った熱が口から溢れた。
窓辺に手を置き夜空を見上げる。
茫洋とした目に、映る世界。
遠く、近く、朧に、眩く輝く光。
雲一つない空には、星と月の光で眩い程で。
遥か遠い空に輝くそれが、まるで間近に感じる。
思わず、手を伸ばした。
指先に、触れるものはない。
目の前にあるのに、掴めそうなのに、手を伸ばしても、届かない。
ゆっくりと、戻される手。
何も掴めず、何も触れられなかった手を、抱きしめる。
―――結婚なさい。アンリエッタ
母の言葉が、蘇る。
晩餐会が始まる前、母とマザリーニの二人が、連れ立ってやってきた。
―――あなたは世継ぎをもうけなくてはなりませぬ
二人は、結婚しろと、世継ぎをもうけろと言ってきた。
理屈はわかる。
それが、正しいこともわかっている。
護衛一人を連れ、ガリアに交渉に赴くなど、普通は考えられない。
殺されたとしても、全く不思議ではない。
世継ぎもなく、死んでしまえば、継承権を持つ貴族の壮絶な争いが起きるだろう。
それを防ぐ意味でも、必要なことだ。
王族として、次に繋ぐための子供をつくることは、全くもって正しい。
そして―――。
―――敵をお味方にすることから始めるべきです
貴族の間で、自分の評価が悪いのは知っていた。
あまりにも、前例のないことをやりすぎた。
自ら敵
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ