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剣の丘に花は咲く 
第十六章 ド・オルニエールの安穏
第三話 何時か宿るあなたとの―――
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と姫さまは今日が初対面の筈だけど、そんな私に何が聞きたいのかしら?」

 笑いながら、しかし目だけは決して笑っていない凛の様子に気付いたのか、アンリエッタに対する言葉遣いを改させようとしたルイズの動きが止まった。

「一人の女として。先達に教えを乞いたいのです」
「へぇ……教え、ねぇ……」

 凛は面白そうに口元を歪める。
 アンリエッタは手慰みに揺らしていた空のコップをテーブルに置いた。

「……、っ……あなたは、目的のためならば手段を……選ぶような事はしないのでしょうか?」
「姫さま?」

 俯いたまま、逡巡するように途切れ途切れに言葉を続けるアンリエッタの様子に、ルイズが心配気に声をかける。
 ルイズの不安に満ちた声に、顔を上げたアンリエッタは、安心させるよに小さく微笑んだ。
 それはとても儚い笑みであったが。

「それがどういった目的かによって違うわね」

 周囲に心配を他所に、凛は空いたグラスにワインを注ぎながらアンリエッタの質問に応えた。

「叶わなくても問題がない目的もあれば、達成できなければ、生きていられないものもある……あなたがいう目的はどちらの方かしら?」
「……自身の命と同等以上と考えてもらっても構いません」

 ぐっと膝の上で手を握り締めたアンリエッタが、真剣な目で凛を見つめる。
 凛はアンリエッタに視線を向ける事なく、注ぎ終えたワインに満たされたグラスに視線を落としていた。

「そう―――なら、私は手段を選ばないでしょうね」
「……そうですか」

 顔を伏せ、気落ちした雰囲気を漂わせるアンリエッタに、凛はワインを注いだグラスを空にすると、「でも―――」と言葉を続けた。

「そうね。その手段によっては、何処かの誰かが横槍を入れるかもしれないわね」
「え?」

 戸惑いに目を瞬かせながら顔を上げたアンリエッタに、凛は悪戯っぽく笑うと、チラリと先程からはらはらとした表情を見せている“誰かさん”に視線をやった。

「何処かの誰かさんは、自分を犠牲にする方法を取るのを心底嫌うから。自分の事は棚に上げてね」

 肩を竦める凛に、アンリエッタは数秒ほど呆然とした後、くすっと笑い声を上げた。

「そう―――ですね。確かに、その通りですね」
「そうよ。全く困ったことにね」

 くすくすと突然笑い出した凛とアンリエッタの姿に、蚊帳の外に放り出されたような士郎が戸惑いながら視線をうろうろとさせていると、何故かじと〜と非難の目を向けてくるルイズと視線があい、逃げるように俯くことになった。
 
「―――それでは、その“誰かさん”に嫌われないようにするためには、どんな方法を取ればよいのでしょうか?」
「そうねぇ……」

 笑いを収めたアンリエッタが、目尻に滲んだ涙
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