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剣の丘に花は咲く 
第十六章 ド・オルニエールの安穏
第三話 何時か宿るあなたとの―――
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「―――ええ、喜んで」

 領地を与えると言われた士郎が、流石にそれはと思い断ろうと声を上げようとするが、にこやかに笑う凛がそれを遮った。余りにも見事に言葉を遮られた士郎が、思わず非難の目を向けるが、

「―――ッ」
「…………」

 刃の如き眼光に睨み付けられ、抗議の声は上がることなく消えていった。
 隣りで始まった一瞬の無言の戦いに気付くことなく、ルイズはテーブルに手を着き中腰で立ち上がった姿勢のまま固まっていた。その頭では、突然の事態を把握するため物凄い勢いで思考が巡っていた。
 確かに、有り得ない話ではなかった。今回の戦いの功労として、水精霊騎士隊の全員がシュヴァリエとなり、自分とティファニアには司祭の地位が与えられた。なのに、一番活躍した士郎には何もなかった。その時は、後で何らかの褒美が与えられるのだろうとは考えていたが……。
 その褒美が領地―――つまり、士郎は領主となるということ。
 だんだんと思考がまとまって落ち着きを取り戻してきたルイズが、平常心を取り戻そうと深呼吸しながら椅子に腰掛けるのだが、

「本当はシロウさんには最低でも男爵の位もつけようとしたのですが―――」
「―――ッ男爵うううぅぅぅぅぅっ!!?」

 直ぐにまたも椅子から飛び上がるように立ち上がる羽目となった。
 ルイズの膝裏に押し出され後ろに飛んでいこうとする椅子を、士郎が手を伸ばし受け止める。

「―――ですが、それは流石にいらぬ嫉妬を買ってしまうと思い自重しました。ルイズは驚いているようですが、本当ならば、それでも足りない程の貢献をシロウさんはされているのですよ。とはいえ、ド・オルニエールは良い土地です。三十アルパンと狭いですが、実入りは一万二千エキューにはなると思います。山に面した土地には葡萄畑もありますし、資料によればワインが年に百樽は取れると」
「ええ。全くと問題はありません。ねぇ士郎」
「いや、り―――」
「ちょっと何であな―――」

 絶対断るなよ!!
 断った分かってるだろうなア゛ア゛ァ゛ンッ!!
 とでも言いそうな視線で士郎を(アンリエッタに気付かれない絶妙な角度で)睨みつけてくる凛に、士郎はガクリと倒れこむ勢いで頭を下げた。
 ルイズもその視線に気付き言いかけた言葉を喉の奥にしまった。

「ハイ。トテモアリガタイデス」
「でも、シロウに領地の経営なんて出来るのでしょうか……?」

 真っ白になった姿で俯いている士郎を見下ろしたルイズが、心配気な声を上げる。
 確かに三十アルパン(十キロ四方)の土地は領地としては狭いが、それでも領地は領地である。世の中には領地の経営を代官に全て任せ、領主はトリスタニアに居座って宮廷政治に夢中になっている貴族はそれこそ星の数ほどいる。しかし、責任感が強い士郎
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