道化師は桃の香に誘われず
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だで消えてやるつもりは無く、可能性があるのなら抗い続けるのは当然のことだが……消失した場合の事象など、とっくに享受しているのだから。
今の彼と似たようなモノがいる……否、“全く同じモノ”が居る。今の彼は、喪失の事実を知ったからこそ、やっとソレらと同じになれたのだ。
信を置く主から“死に華を咲かせ”と命じられれば死地に飛び込んで散り行く……だからソレらは常に喪失を予測していた。
愛しい家族から引き止められようと、そのモノ達の幸福を手に入れる為に死地を物ともせず戦場に突撃する……だからソレらは死という事実に恐怖など感じない。
生きて幸福になれる可能性があるのなら抗い戦い続ける……だからそれらは決して諦めを持たず、同時に己の死が成った事象すら享受している。
この時、黒の道化師は“黒麒麟”にはなれずとも、“黒麒麟の身体”とほぼ完全な同質になっていた。
自身の変化には全く気付かず、秋斗は星から視線を切った。
最後に見た表情は驚き。彼のそんな表情は初めて見たと言わんばかりの。深い思考の錯誤を与えられれば御の字で、思考の束縛という実利を得ただけで十分。
劉備軍の様相は手に入っていた情報と統合すれば読み切れた。だから、と彼は思考を紡ぐ。
――此れなら、諸葛孔明と白馬の王が不在の劉備軍の今なら、掻き乱せるだろ。
雛里と同程度の思考レベルを持つ相手が居らず、彼の中に眠る黒麒麟を呼び戻す可能性のあるもう一人の友が居ないのなら、描いた道筋を現実に敷くことを決める。
――もう此処にいる必要はない。此れから暫らく、お前さんには俺が準備する舞台で踊って貰おうか、劉玄徳。
必要な手札は揃った。もう長居する意味も無し。
詠から秋斗に視線を戻し、緊張した面持ちで瞳を合わせてくる桃香に向けて、秋斗は口を引き裂いた。
「この街が……お前の目指す理想の土台か?」
投げたのは短い質問。拍子抜けするほどの短さではあるが、桃香にとっては大きすぎる意味を持つ問いかけであった。
空気が変わる。桃香の纏う覇気が柔らかながらも重苦しく。瞳の奥に見つけた輝きは、彼女の意思の強さを表していた。
「ううん、まだ途中だよ。まだ、まだまだ……たっくさんの時間が必要なの。此処は平和に見えるけど平和じゃない。ちょっと突いたら壊れちゃうくらい、この街は私の目指す理想とは程遠いって分かってる」
此処で首を縦に振るほど桃香はバカでは無い。
足りない、と感じていた。平和に見えようと、この街はまだ改善点が多すぎた。秋斗に指摘されたことも含めて、また課題が増えてしまった。
それでも良かった。一歩一歩進んでいると実感しているから。このまま変えていくと、決めていたから。
「劉璋の説得と懐柔に同調、部下及び関わる全て
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