道化師は桃の香に誘われず
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盲目に染める。人々に徳を説き、夢を語って共感を持たせ、彼女の理想に溺れさせる。其処に敵味方の別はなく、一度染まれば抜け出すことが難しい。
どちらも同じ弱点を持ち、崩壊に辿り着く道筋も全く同じ。
否、崩壊させないように彼がいつでも手を打っていたから……
――秋斗が黒麒麟の身体に望んでいたモノを逆算すれば、この策をボク達の為に利用し尽せる。
自分達が望む利を得る為の方法を得た。
彼女達の策を知った今ではもう、詠の頭の中で彼と行う益州崩壊への策が一つ二つと積み上げられていた。
そんな軍師の思考を知らず、詠の視線に気付いた桃香は、ビクリと身体を震わせる。秋斗から視線を逸らすことは、今してはならないというのに。
心理把握や情報判断に於いて、この世界で得られない経験を持っている彼から目を逸らすことは、情報を与えるに等しい。
目を逸らさずに居れば、彼は桃香からしか情報を抜き取ろうとは思わなかっただろう。視線が逸れれば興味を広げるのが秋斗という人間で、思考が広がるのは言うまでも無く。
一寸の間。桃香の視線が離れたその一寸に、彼は他のモノを見極め始めた。
自分の話が誰にどんな感情を持たせているのか、それを調べる時間に相成った。
愛紗と鈴々は読み取る必要が無いと既に理解を置いている。性格の把握も、思想の把握も、雛里と詠と月から話を聞いて腐る程に積み上げてきた。
藍々は軍師なので詠に任せておけばいい。
ただ、旧知の友と目を合わせることを意図して避けた。昨日のこともある上に聡い女だと聞いているから最後にしよう、と。
残るのは三人。
まず焔耶に目を向ける。桃香の為の猪という己が付けた評価を確かめる為に。
秋斗に向ける感情は……侮蔑。
それの何処が異常事態だ、と吐き捨てんばかりの苛立った表情。たった数瞬見ただけで彼は視線を切った。
なんのことやあらん、読み通りだ、と。
次に紫苑を眺めた。
警戒したままの読み取りにくい表情の奥には、敵対心が僅かにあった。寄った眉からは心が痛んだことも読み取れる。
――自分達がしている事の意味を知ってるって顔だな。自責と罪悪感。そうかい……黄忠はやはりそっち側か。
聞いた情報では劉備軍と懇意だという。なら籠絡は時間の問題、もしくはほぼ劉備陣営の一員ということ。
それが分かればもう十分、と彼は横に視線を逸らす。
後に厳顔を見た。
そこで彼は、片目だけ細めて驚きを隠す。
見つめる黄金の瞳が楽しげに揺れていた。次は何を言う? と問いかけるような挑戦的な目。秋斗の話と今の状況を楽しんでいるのは間違いないらしい。
――クク、お前さんは理解してるってわけだ。そんでもって黄忠と違いどっちつかず。流れに身を任せつつも自分のし
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